奈良興福寺コンサート(2)
「うわ!これはすごい」
春奈は、聴衆の大盛り上がりにうなった。
日頃は冷静なソフィーも、その顔を上気させる。
「天空の星には、数多の神々が見えるし、聴衆の中にも本当に多く」
圭子は、笑い出す。
「阿修羅が呼んだと言うよりは、阿修羅のもとに集まっちゃった」
「それに歌い出しているよ、神々も」
神々が歌い出したのに呼応したのだろうか、聴衆も大きく口を開けて、威風堂々を歌い出す。
小沢師匠は、本当にうれしそうな顔。
「光君の指揮で、みんなが歌っているよ」
「楽団と合唱団だけの指揮者ではなくて、この音楽の祭りの全体の指揮者だ」
「また、成長したなあ」
「威風堂々」は、聴衆を巻き込んでの大盛り上がりの中、終わった。
光が聴衆に頭を下げると、四方八方から、大きな拍手と歓声、そしてアンコールの声が、光と演奏者たちを包み込む。
光が、再び頭を下げると、ステージ中央にグランドピアノが運ばれてきた。
そして、光の隣に、ルシェールが真っ赤な顔で、歩いてくる。
「それでは、アンコールにお答えします」
「聖母マリアに感謝を、全ての慈愛に感謝を」
光の明るく、通る声が響く。
その声で、大興奮の限りだった聴衆は、また息を飲む。
光は、真っ赤な顔のルシェールに目で合図。
光は、ピアノの前に座り、「カッチーニのアヴェ・マリア」の前奏を弾き始める。
ルシェールは、その胸を押さえて、歌い出す。
春奈は、肩の力が抜けた。
「はぁ・・・負けた・・・」
ソフィーの目が、本当に珍しく潤む。
「ルシェールの念願の想いが、実った」
「あの子も一途で・・・」
圭子もルシェールをじっと見る。
「この時代では、ルシェールが適任だった」
「何があっても、完璧に光君をフォローし続けた」
「特に地球壊滅を乗り越えたのは、ルシェールと聖母マリアの協力があったからこそ」
ルシェールの絶唱が続く中、星空に異変が発生した。
聴衆の誰もが気がつき、見上げると、白い長衣を着た聖母マリアが、浮かび上っている。
「うれしい・・・泣ける・・・」
「ありがたい・・・笑っておられる」
「また、がんばってねって、言われている」
「クリスマスの日に・・・マリア様・・・奇跡だよ、これ・・・」
すると、また異変が発生した。
星空に浮かんできた聖母マリアが、地上に降りてきた。
そして、ピアノを弾く光と、歌い続けるルシェールに手を振り、その前に座る。
光のピアノとルシェールの歌声は、ますます神々しさを増し、聴衆を包み込んでいく。




