長谷寺にて
大神神社の参拝を終え、一行は長谷寺に到着した。
長谷寺は奈良県初瀬にある真言宗豊山派の総本山。
西国三十三か所の御詠歌の八番札所として、
「いくたびも まいる心は はつせ寺 山も誓いも 深き谷川」
とうたわれる名刹である。
尚、長谷寺は、はつせ寺とも、呼ばれていた。
草創には諸説あるけれど、朱鳥元年(686)に大和川原寺の道明上人が、天武天皇の銅板法華説相図を西の岡に安置、神亀4年(727)から、東大寺の建立にも尽力した良弁の弟子徳道が、その東南の高所の岩盤を基礎として約7.8mの十一面観音像と観音堂を建立、その後行基を導師として落慶法要を行ったと伝えられている。
ここでは、ソフィーが説明をする。
「広い境内に、様々な歴史のある堂宇があります」
「枕草子では、第214段、簡単に現代語訳しますが」
「九月の二十日過ぎの頃、長谷寺に参詣をしたのですが、その時に、ごくごく小さな家に泊まったのです。ただ、本当に疲れていたので、何も考えずに寝入ってしまうだけの状態。それでも、夜が更けてきて、月の光が窓から漏れてきています。家の人が寝ている着物の上に、その月の光が白く映って、素晴らしく雰囲気のあることと思いました。また、そのような時にこそ、人は歌を詠むのだとも、感じました」
光を含めて、全員が「さすがソフィー、観音様の巫女」と聞いていると、ソフィーは、違う話に移る。
「源氏物語においては、玉鬘の話が有名」
「亡き夕顔、つまり玉鬘の実母の侍女で今は源氏に仕えている右近は、夕顔の娘玉鬘を探し続けていましたが、長谷寺近くの椿市の宿で、念願の再会を果たします」
「玉鬘自身は、九州から逃げかえるように戻って来て、都には誰も頼る人がいない時期」
「藁にもすがる思いで、長谷寺に詣でたので、観音様のご利益でしょうか」
「その後は、源氏の屋敷に引き取られ、シンデレラストーリーのような展開に」
ソフィーの説明は続くけれど、途中から、あまり聞く人がいなく、どんどん歩きだす。
「これが、長谷寺の総門?仁王門か、すごいなあ、立派だ」
「山の霊気に包まれる感じ」
「こいつら・・・何も聞いていない」
この時点で、ソフィーは説明を諦めた。
さて、門をくぐると現れるのが、屋根付きの階段、登廊。
「ふふん」とソフィーに流し目、楓が説明をする。
「平安時代の長暦3(1039)年に、奈良の春日大社の宮司・中臣信清が我が子の病気平癒を長谷寺に祈願したところ無事に回復したことから、その御礼に登廊を寄進したとか」
しかし、その登廊はかなりな距離で巫女たちが騒ぎ出す。
「上登廊・中登廊・下登廊と3廊に分かれていて、総数は399段だって!」
「楓ちゃんって、偉そうだけど、パンフレット読んだだけ」
「下廊は段差が低いけれど、中登廊、上登廊と続くほどに段差が高くなる」
「楓ちゃんが説明すると、マジに足が重たい」
「光君、大丈夫かなあ、ひ弱だし」
さて、そんなことを言われた光は、意外に身軽。
巫女たちを置き去りにして、すいすいとのぼり、入母屋造本瓦葺の本堂に到着してしまう。
「何事?」と驚く巫女たちが息を切らしながら本堂に到着すると、光は本堂の前の広い舞台に立ち、景色を眺めている。
そして、その眺めは、一行にも感激を与える。
「断崖絶壁だね、いい眺め」
「京都の清水寺と同じ懸造かな」
「気持ちがスッキリとするなあ、これはいい」
「さすが、古刹、人が詣でたくなる気持ちがわかる、この眺めだけでも」
本堂前に広がる絶景を堪能した一行は、ご本尊の十一面観音に詣でた。
そして、十一面観音との結縁となる五色の紐をもらい、ご満悦。
結局は、本当に楽しい小旅行になったようだ。




