高松塚でお弁当 光と楓
一行のお昼は、高松塚古墳を見学後、その広場でお弁当を食べるというもの。
冬ではあるけれど、暖かな陽気、全員が和気あいあいと食べている。
「高松塚も面白いね、発見した人は驚いただろうね」
「天平美人か、あそこに描かれている以上、本当にいたんだ」
「死んでも天平美人に囲まれる生活か、それも幸せかな」
「それにしても、のどかなところ」
「お弁当が美味しい、お米も炊き方も」
「みんなで協力して作ったことが、ますます美味しく思う」
「奈良漬がたまらない、食が進む」
「いや、野菜も肉も自然な味で、滋味にあふれている」
「この熱いほうじ茶が、美味しい、やさしい味」
「こういうピクニックも楽しいね、昔で言うなら、野遊びかな」
そんな楽しいお昼が進む中、ルシェールが予定などを説明する。
「少し遅いお昼でしたけれど、今日の見学コースはここで終わりになります」
「この後は、また教会に戻り、コンサートの練習」
「尚、明日は三輪明神と、長谷寺に参拝の予定です」
すると楓が、ルシェールに質問。
「ねえ、ルシェール、明日もお弁当なの?」
「まさか三輪山で?」
ルシェールは笑って首を横に振る。
「それは無理、光君は三輪山を登る体力はないもの」
「下手をして指揮に差し障りがあっても困る」
「楓ちゃんとか、私、春奈さん、華奈ちゃんには慣れている三輪そうめんを考えているよ」
「せっかく来たから、本場で」
楓は、少しがっかりした顔。
「うーん・・・食べ慣れ過ぎ・・・でも、他の地方から来れば、そうかな」
そんな楓に光が声をかけた。
「それね、地方料理って、行ったら、一度は食べたほうがいいと思う」
「美味しいとか、美味しくないとかは、別の次元で」
楓は、まだ、がっかりした顔。
その楓に、光が話を続ける。
「昔ね、父さんと、母さんが生きていた頃、岩手かな、旅行して、わんこ蕎麦の店に入ったの」
「その時に、父さんと母さんは、わんこ蕎麦を食べたけど」
「僕は、ああやって隣でポンポンお椀を出してくるのが、忙しいなって思って」
「普通のお蕎麦にしたの」
楓は、「ふむふむ」と聞き、他の一行も光の話を聞いている。
光は、話を続ける。
「でもね、今になって考えると、なかなか、岩手って行けなくてね」
「それに、母さんとは、一生行けないなって」
「それを思うと、すごく反省している」
「お母さんにも、悪いことしたかなあと」
「忙しいとか、そんな小さな理由で、一生の思い出をと」
楓も、その話にホロリ気味。
「そうかあ・・・そうだよね、全員で同じように、仲良く食べるのも大事だよね」
「ましてや、奈良に住んでいる私が、率先して三輪そうめんをアピールしないと」
「素朴で、やさしい味で、実は好きなの」
春奈は、そんな光と楓のやり取りを見ていて思った。
「結局、楓ちゃんが何だかんだと言っても、最後は光君に説得される」
「いいなあ、いとこの関係も・・・」
春奈は、珍しく皮肉も言わず、光と楓の関係を、うらやましく感じている。




