光のデヴュー曲決定と巫女たち
さて、光がプロデヴューとして最初に決めた曲は、ドビュッシーの「月の光」。
正確には、1890年頃に書かれたドビュッシーの初期作品「ベルガマスク組曲」の中、「プレリュード」・「メヌエット」・「月の光」・「パスピエ」の全4曲で構成されたピアノ独奏曲の第3曲目。
有名な曲であるので、単独で演奏されることも多いけれど、光としては全曲を演奏する考え。
「短い曲ばかりなので、全4曲演奏しても、それほど時間はかからない」
「いつかは挑戦したいと思っていたから、いい機会と思う」
と、音大で待つ大指揮者小沢に、スマホでメールを打っている。
その大指揮者小沢からも、すぐに返信メール。
「うん、それは面白い、早速ポスター、チラシ、プログラムノートに取り掛かれるよ、ありがとう」
「それから内田先生にも、連絡しておく」
その光が大指揮者小沢と連絡を取り合っている間に、巫女連中には、即情報が伝わってしまった。
そして全員が、「へえ・・・」と言った驚きの声や、様々な声。
春奈
「うーん・・・繊細な曲だけれど・・・バッハかモーツァルトと思っていた」
由紀
「まさかねえ・・・すごく好きな曲だなあ、落ちつくし。光君も落ち着きたかったのかな」
ルシェールはうれしくて仕方が無い。
「うんうん、我が母国フランスの曲をデビュー曲にね、そうなるとフランスでも演奏しないと、そして私は妻兼マネージャー決定」
華奈は、そんなルシェールが気に入らない。
「まだまだ先の話でしょ?それって・・・」
柏木綾子はまた別の発想。
「諏訪大社で夜空を眺めながら、光さんに弾いてもらうと、諏訪の神様、お喜びになるかなあ」
奈良に住む楓は、華奈からのメールで、それを知る。
「ふーん・・・そうかあ・・・いいかも」
「派手ではないけれど、光君の繊細さが合うかも」
「ついでに興福寺のコンサートのアンコールで弾いたらいいな」
とまでは、普通の反応。
しかし、次に出るのは、楓らしい言葉。
「月の光なんて言うから、お月見団子とか、お月見バーガーが食べたくなった」
「でも、それやると、ダイエットが進まないな」
「失敗したら、光君の責任にしよう」
この楓らしい言葉も、都内に住む巫女たちに華奈を通じて早速伝わり、全員が呆れ顔。
特にソフィーの一言がきつい。
「美しい月夜で、全員がうっとりとして光君のピアノを弾いている時に、楓ちゃんは、お団子もぐもぐ」
「そういう無粋な女の子は、きっと体型もお団子になるに決まっている」
ただ、母親世代の巫女は、また違う。
光の叔母圭子は、複雑な表情を隠さない。
「デヴューすることは素晴らしいけれど、あまり人気が出すぎてもね」
もう一人の叔母奈津美も、難しい顔。
「おそらく、人気はすごく出る、あのルックス、音楽性は飛び切りのもの」
春奈の母で医師でもある美智子は不安な顔。
「光君、身体持つかなあ、根を詰めすぎるとダウンするから」
同じような心配が続く中、光は再び、その目を閉じた。
ようやく心配だったデヴュー曲も決まり、安心して眠ってしまったようだ。




