奈良興福寺コンサート準備(16)
光の指揮による、威風堂々が始まった。
キリッとして歯切れのよい導入部が展開していく。
大指揮者の小沢は、最初からニンマリ。
「これは、かっこいいや」
「シャキッとしていて、品もある」
圭子叔母も笑顔。
「光君、こんな演奏も出来るんだ、見直した」
有名なメロディーの部分に入ると、春奈とソフィー、ルシェールは立ち上がった。
春奈
「歌いたくて」
ソフィー
「ねえ、合唱団に入れてもらう?」
ルシェールはためらわなかった。
「華ちゃん」と、岩崎華を誘って、女声合唱団員の中に入り込んでしまう。
壁際で見ていた練習指揮者の吉田と、元コンサートマスターの谷口も我慢できなかった。
そのまま、歌いだしている。
小沢が、圭子叔母の肩をポンと叩く。
「結局、光君は全員を乗せちゃうね、引き付ける」
圭子叔母は、ますますうれしそう。
「成長したかな、光君」
威風堂々は、大盛り上がりの中、終わった。
光は、楽団員全員に声をかける。
「ありがとうございました、僕との最初の練習で、ここまで頑張ってくれて」
「明日から、もう少し細かなポイントを指摘、修正します」
「それと、より良い演奏のために、体調管理はしっかりと」
と、簡潔な指示、楽団員全員の拍手を受けて、指揮台を降りた。
すると、光の横に、岩崎義孝が立ち、楽団員全員に話を始める。
「岩崎グループの当主、岩崎義孝と申します」
「光君の後援者をしております」
「それで、皆様にお願いがあります」
楽団員がザワザワとする中、岩崎義孝は、話を続ける。
「クリスマスの興福寺の野外コンサートということで、風が冷たい、寒いということも想定されます」
「それを踏まえまして、我がグループが用意した特製ジャケットをご使用ください」
「中には、電熱が入り、寒さを感じさせない程度に」
「もちろん、企業名は出しません、無紋にて、当然無償提供です」
すると、楽団員に、またザワザワと動揺やら様々な反応が起きる。
「岩崎グループって・・・あの?」
「うん、日本の中でも、最大の財閥」
「そんなすごい人が、光君の後援者・・・」
「こうなると、ますます安心感たっぷりって、感じ」
教会のドアが開いた。
そして、望月梨花が大きな段ボールを台車に乗せて、運び入れて来る。
光が、楽団員全員に声をかけた。
「まずは、サイズを確認して、着てみてください」
「外は寒いです、今夜から着て帰ってもらっても構いません」
光の声かけに対する楽団員の行動も速かった。
全員が、特製防寒ジャケットを早速、身に着け、身体をあちこちに動かす。
「マジに動きやすい、演奏の邪魔にならない」
「それとデザインが、かっこいい、これは実用にもなるし、記念にもなる」
「光君のおかげかなあ、感謝だ」
その様子を見た岩崎義孝と光は、ホッとした顔、握手を交わしている。




