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奈良興福寺コンサート準備(13)仲直り

光の指揮による、キレキレで圧倒的な「火星」の演奏が終わった。

そして、光は壁際に座る練習指揮者の吉田とコンサートマスターの谷口に振り返った。

「吉田さん、谷口さん、オーケストラに復帰します?」


まず吉田が首を横に振る。

「いや、俺は指揮者だから・・・ここで聴く」

谷口は、腰が抜けて立ち上がれない。

「いや・・・遠慮しておく」


光は重ねて尋ねた。

「いや、練習指揮者の吉田さんは、ともかく」

「コンサートマスターの谷口さんは、復帰しないと困るのでは?」

「あくまでも今西さんは、臨時のコンサートマスター」


そこまで尋ねられて、谷口は、ようやく立ち上がった。

そして、素直に光に頭を下げた。

そして、意外なほどに、表情がスッキリしている。

「子供なんて、馬鹿にして悪かった」

「今の俺の力では、光君の指揮に応えられない」

「残念だけど、事実」


そして、今度は、楽団員全員に頭を下げた。

「いろいろ、我がままを言い続けて、悪かった」

「俺は、現役を引退する、未練はない」

「今回から、裏方に回るよ、つまり事務局になる」



その谷口の姿を見て、圭子叔母がつぶやいた。

「ほお・・・素直に負けを認めたんだ」

小沢も、今までとは違う表情で、谷口を見る。

「うん、これはこれで、男らしい」

「経験を活かして、事務局の仕事をしてもらうのもいいだろう」



光は、谷口に頷いて、再び楽団員に振り返った。

「皆さん、このような結果になりました」

「少々、気まずい部分もありましたが、あくまでも興福寺でのコンサートを成功させたいため」

「谷口さんの男気には、感謝したいと思います」


光は、少し間を置いた。

そして、大きく、明るい声。

「今までの、谷口さんの、努力と苦労、功績に感謝の拍手をお願いします」


期せずして、楽団員全員が立ち上がった。

そして、大拍手が「元」コンサートマスターに浴びせられている。


光は、照れている谷口を呼び寄せ、握手。

「すみません、いろいろ、無茶を申しまして」


谷口は、顔をクシャクシャにして、光の肩を抱く。

「いや、これほど、実力差を見せつけられると、逆にスッキリする」

「光君に引導を渡してもらった、誇りになるよ」

「今は、うれしくてたまらない」


光も、しっかりと谷口を抱く。

「僕の父さんも、母さんも奈良町出身なんです」

「だから見知らぬ東京の学生ではないんです」


谷口の身体がビクンと動く。

「え?それ・・・本当?」

「あ、そうか、圭子さんの甥・・・」

「もしかして・・・史さんと菜穂子さんの?」


史が軽く頷くと、谷口は破顔一笑。

「あーーーー!そうかーーー!」

「なんだーーー!最初に言ってよーーー」

「ますます応援したくなるよ!マジにうれしいなあ」

本当にうれしいのか、谷口は泣き出している。


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