表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
280/303

奈良興福寺コンサート準備(12)

「わかった、弾くよ、弾けばいいんだろ?」

コンマスの谷口は、ようやくヴァイオリンを構えた。

光は、楽団員全員に声をかける。

「谷口さんが、模範演奏をしてくれるそうです」

「しっかり聴いてあげてください」


練習指揮者の吉田が、複雑な表情で指揮棒を振り下ろすと、コンマス谷口の「模範演奏」が始まった。


しかし、予想通り、結果は無残なものだった。


楽団員から、落胆の声が止まらない。

「音は弱いし、音程もグチャグチャ、リズム感なし」

「あれでコンマス?それで威張っていたの?」

「確かに長いけれど・・・元音大なんでしょ?」

「はぁ・・・嫌だ、こんなコンマスだと・・・」


そんな声が聞こえたのか。練習指揮者の吉田は指揮棒を振るのを止め、コンマスの谷口もヴァイオリンを弾くのを止めてしまった。


光が落胆する吉田と谷口に声をかける。

「お疲れのようです、少し休まれては?」

吉田と谷口は、心を折られた状態。

「ああ、そうだな」

「少し休みたい」

と、楽団から離れて壁際の床に座り込んでしまった。


「さて・・・」

その様子を見た光が指揮台に向かって歩き出し、そのまま指揮台にのぼった。

そして、光の指揮を熱望する発言をした、第二ヴァイオリンの今西に声をかける。

「あの、すみませんが、今西さん、臨時のコンサートマスターをお願いしたいのですが」

「もう一度、オーケストラ全体のチューニングも含めて」


光に声をかけられた今西は、全くためらわなかった。

「はい!」と元気よく答え、さっそくチューニングのやり直しを始めている。


その様子を見た小沢は、感心しきり。

「光君、さすがだね、あの今西って女の子が上手ってことを見抜いたんだ」

「あの女の子、やる気もあるし、いい感じだ」

圭子叔母は、「あれ?」と首を傾げる。

「うーん・・・今西さんねえ・・・そう言えば、近所だ」

「有名な地酒店の親戚で、音大に通っている子だ」

華奈も地元、実は旧知らしい、ニコニコと今西を見ている。


チューニングも終わり、今西が光に目で合図。

光も頷き、楽団員に声をかける。

「これから火星を振ります」

「イメージは、さっき僕が弾いた通り」

「でも、その前に、一旦目を閉じて、深呼吸」

「戦いの神に捧げる曲、戦いに出向く気持を・・・」

「その気持が高まった時点で、目を開けてください」


光の指示通りに、楽団員全員が一旦、目を閉じ、そして順次、その目を開ける。

そして、全員の目が開いたその時、光は指揮棒を振りおろした。


「うわ!すごい・・・」

「ガチガチの緊張感・・・キレキレのリズム感」

「さっきと全然違う・・・シャープで音楽が大きい、パワフル」

圭子叔母や巫女たちは、背筋がシャンと伸びた。

大指揮者の小沢も真顔で聴き入っている。


そして壁際に座る吉田と谷口は、口をポカンと開け、ただただ圧倒されている感じになっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ