表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
279/303

奈良興福寺コンサート準備(11)

期待や蔑視の感情が交錯する中、光のピアノ版「火星」が始まった。


途端に、楽団員たちの目が丸くなり、驚きの声があふれる。


「厳しいリズム・・・キレキレだ、超絶技巧だよ、光君」

「確かに火星は戦争の神、厳しい・・・ピアノの音が半端ではない」

「これが超一流のピアノ?かっこいい、これはすごい」

「フレーズも超硬質って感じ」

「シャキッとする、目がパッと開く」

「そうだよね、これくらいでないと、火星らしくない」

「はぁ・・・今まで、私たち、何やって来たんだろう」


光のピアノ演奏が始まるまでは、「弾けるものか、何が出来るものか」と蔑視の目で見ていた練習指揮者の吉田もコンサートマスターの谷口も、これには腰を抜かすほど驚いた。


「何だ?あの子は・・・」

「凄すぎ、俺のレベルと違う」

「トッププロでもあんな演奏聴いたことがない」

「馬鹿にしていたけれど・・・おい・・・やばいぞ、これ」


光は、圧倒的なピアノ版「火星」を終えると、再びオーケストラに向き直った。

「僕の火星に対するイメージはこんなもの」

「確認したい」

「皆さんは、こうしたくない、今までの演奏で充分と考えなのですか?」


若手の楽団員、第二ヴァイオリンの一番前で弾いていた若い女性が立ち上がった。

「第二ヴァイオリンのリーダーの今西と申します」

「私たちは、光さんのイメージで弾いてみたい、演奏したいんです」

「是非、身を引くなどとはおっしゃらず、そのまま指揮台に」

その今西に賛同する人も多い、大きな拍手が光に寄せられている。


それでも、光は慎重。

「一応確認したいと思います」

「僕の弾いたような火星のイメージ、それをコンサートマスターの谷口さんが弾けるのかどうか」

「それにより、また考えます」


練習指揮者の吉田が、コンサートマスターの谷口の脇をつつく。

「おい、どうする?」

谷口は、顔を真っ青にしてためらう。

「弾けないと言えば、馬鹿にされるし」

「弾く自信もない、あんな感じには」


その谷口に光が声をかけた。

「どうします?弾きます?」

「みんな楽団員の人が注目しています」

「貴重な練習時間がもったいない」


光の言葉に賛同したのか、楽団員の足踏みも始まっている。


そんな光と市民オーケストラの様子を見ている小沢はプッと笑う。

「光君を小馬鹿にした練習指揮者とコンマスを窮地に」

「そして、練習指揮者とコンマスに反感を持っていた楽団員を味方に」


圭子も、クスクスと笑う。

「そう言えば、小沢先生も若い頃、ヨーロッパで同じことを?」

小沢は、ニヤッと笑う。

「ああ、そんなことあったね、思いっきり恥をかかせて、馬鹿にしてきた二人を首にしたよ、でも、それでそこのオーケストラは結果的に伸びた」

「まあ、薄情なようだけど」


光は、ためらうばかりのコンサートマスターの谷口を、冷静な顔で見つめている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ