奈良興福寺コンサート準備(6)楓は大喜び
「楓ちゃん」
光は、楓の前に立った。
「うん・・・」
文句を言い続けていた楓は、途端におとなしくなる。
「何事?」
「ふむ、光君が前に立ったら、突然、しおらしく」
「あのまま、爆発するかと思ったのに」
「よくわからないけれど、楓ちゃん、照れてる」
「結局、光君と話をしたかっただけ?」
・・・・巫女たちから、そんなヒソヒソ声があがる中、光は内ポケットから小箱を取り出して、楓に渡している。
光
「これ、父さんから、楓ちゃんにって」
楓の顔が、真っ赤になった。
「え?マジ?史叔父さんから?」
「わーーー!うれしい!」
「開けていい?」
光
「うん、開けてみて」
楓は、真っ赤な顔のまま、笑顔で小箱を開けた。
そして、またうれしそうな顔。
「えーーーー?」
「可愛い!これ!」
「もしかして・・・コロボックルのお人形?」
「叔父さんが彫ってくれたの?」
光もホッとした顔。
「うん、父さんが言うのにね、魔除けと、健康長寿のお守りにって」
「アサダの木かな、年月と共に深みのある褐色になるよ」
「光沢もあるね、硬くキズも付きにくい、丈夫で長持ち」
楓は、ますます笑顔。
「そうか・・・これで、いつでも史叔父さんと一緒だね」
「うんうん、鬼母とは違って、いつもやさしい史叔父さん」
さて、そんなことで、楓はすっかりニコニコ、おとなしくなった。
そして、光や巫女たちに上機嫌のまま、声をかける。
「これから練習?」
「じゃあ、がんばってね!」
「さて、家に帰るよ」
「史叔父さんにもお礼の電話したいしさ」
そこまで言って、最後は大声。
「あーーーうれしい!光君なんて、どうでもいいや!」
・・・と、そのまま、教会から姿を消した。
教会内の巫女は、少し間をおいて、ブツブツと言い始める。
「ふう・・・疲れた」
「冷や冷やしたけど、実に単純な楓ちゃん」
「光君のお父さんは、楓ちゃんの憧れだったしね」
「楓ちゃんの爆発を抑えるほどの威力もすごい」
光は、そんな巫女たちには、関心がないので、早速ピアノを弾き始めた。
「練習しておかないとね」
「こっちで弾くのは、初めてかな」
「あまり恥ずかしいこともできないし」
その光の言葉にドキッとしたのか、巫女たちも早速自分の楽器を取り出し、練習開始、あるいは、発声練習を開始することになった。




