奈良興福寺コンサート準備(5)当面の日程、楓登場
豪勢な食事も、ほぼ終わり、ルシェールが奈良における具体的な日程の説明を始めた。
「まず、コンサートの日時は、御承知の通り、12月24日の午後7時から」
「場所は、興福寺東金堂の前」
「地元のオーケストラの指揮を光君、それに巫女たちもエキストラ参加します」
「曲目は、ホルストの組曲惑星がメインとして、他には威風堂々」
「それから、オーケストラの練習場所としては、ここの教会になります」
「オーケストラ全体の練習開始は、午後7時から」
「それまでは、巫女さんたちが、自分の練習場所としてお使いになっても、もちろん結構です」
少し考えていた光が、口を開いた。
「今日は時間まで、それぞれ、ここで練習しよう」
「明日以降は、少し奈良観光はどう?」
春奈も、珍しく素直。
「そうねえ、奈良公園界隈と西ノ京は、この前に行ったから」
「明日香村とか、橿原神宮とか」
「三輪神社、長谷寺」
華奈が春奈に尋ねた
「春奈さん、引率するの?」
途端に、春奈は呆れた顔。
「あのさ、華奈ちゃんも奈良育ちでしょ?」
「どうして、そういう地元振興の意欲に欠けるわけ?」
窮地に陥る華奈をフォローしたのは、同じく奈良育ちのルシェールだった。
「はい、全てお任せください、スケジュールも立てます」
そして、一呼吸。
「楓ちゃんについては、私が一応、声をかけます」
「そうしないと、何を言われるかわからないし」
そんな話し合いが続いている時だった。
ソフィーが、いきなり厳しい顔。
何かを察知したらしい。
「ねえ、みんな、楽器出して!」
「歌を歌う人は、発声練習!」
「光君はピアノの前に!」
そのソフィーの「察知」は、誰しもが、即時に共有。
つまり、「楓が急接近中」だった。
全員が、「やばい!」「いそがないと」「ほら!光君、モタモタしない!」と、途端に動き始めるけれど・・・無駄だった。
教会の扉がバタンと開き、楓が入って来た。
そして、その顔を真っ赤にして、文句が始まった。
まずは、低い声での文句。
「ほー・・・」
「何を慌てているのかな?」
「ふーん・・・いい匂いも残っているなあ・・・」
「私に黙ってねえ・・・豪勢な料理を食べたとか?」
「せめてねえ、奈良についているのなら、メールの一つも何で出来ないのかなあ」
「光君は、アホだから、そういう機械操作が出来ないのは、よくわかる」
「でもね、あなたたちは、光君ほどに、アホではないでしょ?」
「しかも、私にお嫁さん判定をしてもらう立場でねえ・・・」
「いいよ、そんな態度なら・・・私なんて、鬼母の計略でにゅうめんだったし・・・」
「そろそろ爆発」と、巫女たちが全員身構える中、光は、いつものハンナリ顔。
そして、楓に向かって歩き出した。




