奈良興福寺コンサート準備(3)東名にて
ソフィーが苦り切った顔で解説をはじめた。
「つまり、アホの光君が、ふいに寝返りを打とうとした」
「そこで、その頭が大きく動いたので春奈さんの胸に当たった」
「春奈さんは、驚いてバタバタと動いた」
「それで、その拍子にブラのホックが外れた」
フムフムとソフィーの解説を聞いた巫女たちは、ますます気に入らない。
「光君がアホなのは生まれつき」
「そんな少し当たったくらいでオタオタする年なの?春奈さん」
「私は大きく動かなくても、当たるかも」
「・・・私は無理かも、あの反応は私への皮肉に過ぎない」
「ああいうことするから、春奈さんって困るの、あざといって感じ」
「それでいて、都合のいい時だけ、教師のような口調になる」
「あれは逆セクハラでは?」
「うーん・・・光君自身が、無粋だし、そんなことわかんないって」
・・・・・様々、やっかみやら文句やらが続く中、春奈の動きは素早い。
すっと外れたホックを元通りに、再び光の頭を自分の膝に、しっかりと押さえつける。
そして、不穏な顔で自分を見つめる巫女たちに反撃開始。
「は?何をゴチャゴチャと・・・」
「何しろ、過去世では、一番多く妻だったのは私」
「つまり、光君に一番愛されて来たのは、私なの」
「まだまだ、あんたたちには負ける春奈さんではないの」
そんな反撃で、春奈の身体に、一定の振動があったためだろうか。
いきなり光が身体を起こした。
そして、ぼんやりと春奈を見る。
「あれ?春奈さんだったの?」
「ありがとう、寝ちゃった」
春奈は、顔が真っ赤。
「うん、いいよ、光君、コンサートやら何やらで疲れがたまっていたんでしょ?」
「私の膝でよかったら、いつでも」
光は、ボンヤリから復活した。
そして車窓から外を見る。
「浜名湖が近いんだ」
春奈は、光の考えを読んだ。
「もしかして、楓ちゃんへのお土産?」
光は、頷いた。
「鰻のお菓子があると思った」
「それと早生ミカンかなあ」
「お茶も買って」
そんな光の発言で、巫女たちは、いきなり現実に戻った。
「そう言えば、楓ちゃんへのお土産買ってなかった」
「何もないと、すごい文句言うよね、あの子」
「お菓子でいいよね、叱られても、どうせ食べるから」
「いいよ、春奈さんの膝枕も胸も、どうせ光君は忘れちゃうし」
「サービスエリアで試食品食べ歩きしたい」
それでも、ようやく頭がはっきりし出した光は、奈良の圭子叔母に電話を始めた。
「はい、光です、浜松でサービスエリアに入ろうかと」
「鰻のお菓子と早生ミカン、緑茶でどうですか?」
「あ、はい、骨せんべい?わかりました」
「楓ちゃんには内緒で?いいんですか?」
光と圭子の電話が終わった。
光が、少し困った顔。
「とにかく食べる物は、楓ちゃんに見せたくないって」
これには、全員の巫女が困惑。
「うーん・・・どうしたものか・・・」と考え込んでいる。




