いきなり音大に向かおうとする光と由香利、そして巫女たち
光のスマホ画面にあったのは、師匠にして大指揮者の小沢からのものだった。
「光君、秋のコンサートでのピアノソナタの曲を早く決めて欲しい」
「決まっているなら、音大に今日は一日いるから、来て欲しい」
「打ち合わせもしたい、何しろ時間がない」
「ポスターやチラシ、プログラムノートの作成もギリギリ」
こうなると、いくらナマケモノの光でも、すぐに行動を起こさないといけないと理解したようだ、
超高級懐石のデザートのリンゴシャーベットを食べ終えた途端、立ち上がった。
そして、まず由香利に頭を下げる。
「由香利さん、今日は素晴らしい懐石、本当にありがとうございました」
「本当は、もう少し歓談をしたいのですが、急用を思い出しました」
「それでは・・・」
いきなり、そんなことを言われ目を丸くする由香利と、あ然となる他の巫女など、全く見向きもしない。
光は、スタスタと懐石料理の場を出ていこうとする。
そんな光に、すかさずソフィーの叱声が飛ぶ。
「こら!光君、みんなを置いてどこに行くの!」
「勝手な個人行動は厳禁って言ってあったでしょ?」
「警護の必要もあるんだから!」
キャサリン、サラ、春麗も、素早く立ち上がった。
キャサリン
「どちらに行かれようと、警護します!」
サラ
「逃しはしません、あきらめてください」
春麗の目がキラリと輝いた、途中から光を読んでいたようだ。
「さっさと行き先を・・・でもわかった、音大?小沢先生のところ?」
そんな言葉に返事することもなく、部屋を出ていこうとする光に、由香利がスッと近づいた。
「光君、親父の車で送らせる、他の巫女は後から追っかける」
「それでいい?」
光は、本当に申し訳なさそうな顔。
「ありがとう、本当に助かります」
すると由香利は笑顔。
「親父の車に乗るのは、光君、キャサリン、サラ、春麗、そして私」
そして、光の腕を、グイッと組み、そのまま歩きだす。
「さあ!急ごう!モタモタしてる場合じゃないって!」
そんな由香利と光の様子を見ているしかない巫女たちは、落胆しきり。
春奈
「光君もアホだけど、最近、由香利さんがメチャ強い、グングン光君をフォローしてリードしている」
華奈は、また目がウルウル。
「マジで負けちゃう、由香利さんには・・・実力差かなあ、同じ伊勢の巫女なのに情けない」
いつもは冷静なルシェールも、そんな感じ。
「どうして私は、時々一歩遅れるのかなあ、由香利さん、すごいなあ、最近完敗続きだ」
由紀はうなった。
「江戸の大姉御かあ、頼りがいがある・・・でも、ここでモタモタしている場合ではないのは正解、車への乗せ方も完璧」
柏木綾子は、目をパチクリ。
「うーん・・・光さんのまわりには、力ある人、それも様々な御力、射止めるには先が遠いなあ」
そんな巫女たちはともかく、光の頭の中は、「演奏するピアノ曲のこと」で精いっぱい、様々なピアノソナタが流れては消えていく状態になっている。




