楓が完敗 光の枕元に三体の異形が出現
「楓ちゃん・・・」
由香里の声が実に低く、怖いほどの凄みがある。
「え・・・何・・・由香里さん・・・」
これには、さすがの楓も怯む。
江戸の大姉御、伊勢と住吉の巫女の実力が半端ではないことは、楓も理解している。
何しろ、あの厳しい母圭子が、次代の日本巫女の筆頭とも言い切る由香里なのである。
その次に、最強ルシェール。
ルシェールも厳しい。
「楓ちゃん、どうして全く成長がないの?」
「目と鼻の先に実家があって、どうしてホテルのビュッフェで暴飲暴食をしようと考えるの?」
「心に決めたんでしょ?斎藤さんの美しい彼女になるって」
「それが、少しお付き合いしただけで、もう慢心?」
「今着ている服だって、パンパンだよ、着れなくなったらどうするの?」
ルシェールの言うに任せていた由香里が口を開いた。
「今までは、楓ちゃんと斎藤君の恋が実るよう後押ししたけれど、後は知らないよ、どうなっても」
そして、ますます楓が気になるような一言を放つ。
「斎藤君ね、熊さんみたいで女の子にモテないと思うでしょ?」
「でもね、大間違いなの、隠れファンが多いの」
「実はすごくやさしくて、頼りになるタイプだもの」
ほぼ泣き顔になってしまった楓に、光がとどめを刺した。
「僕は、どっちでもいい、お母さんと話し合って」
「はぁ・・・鬼母・・・」
楓は、下を向き、黙り込んでしまった。
さて、そんな一悶着はあったものの、やはり緊張した演奏会の後、全員が疲れていた。
そして、それぞれの部屋に直行、バタンキュー状態で朝まで全員が熟睡となった。
その熟睡の光の枕元に、三体の異形が立った。
阿修羅、地蔵、聖母マリアだった。
阿修羅
「協力ありがとう、地球を救えたよ」
地蔵菩薩
「いえいえ、人の気持もまだまだ捨てたものではないことが、よくわかりました」
聖母マリア
「私も、たくさん人の前に出られて、うれしかった」
阿修羅は光の顔を見た。
「この子も、少しずつ成長している」
地蔵菩薩
「悲しい過去を背負いながら、みんなのために懸命に」
聖母マリア
「なるべく早く伴侶を正式に決めて、この子の後継者も」
阿修羅が微笑んだ。
「この子の中では、決まっているかもしれないね」
「ただ、それを口に出すことが不安」
地蔵菩薩も少し笑う。
「自分から口に出すのを待ちましょう」
「それくらいは・・・」
聖母マリアが光の髪をなでた。
「本当に幸せになってもらいたいの、この子には」
「いつまでも、過去のことで、苦しませたくなくて」
阿修羅、地蔵菩薩、聖母マリアの話は、長く続いていた。




