コンサート開始 光線は宇宙に
凄まじいほどの拍手と、地鳴りのような足踏みを受けて、光はステージに登場して来る。
そして、その様子は不思議なことに、全世界に設置された鏡に映し出されている。
光は、とうとう、ステージの中央に立った。
そのまま、聴衆に深くお辞儀。
また、凄まじいほどの拍手と地鳴りの足踏みが起こる。
光は、ゆっくり身体を起こし、指揮台に立った。
ゆっくりと懐から指揮棒を取り出し、何か不思議な呪文を唱える。
ステージで光を見る巫女たち、春日大社で祈り続ける巫女たちは、同時に感じた。
「あの指揮棒に、阿修羅が宿った」
「もう、光君も輝き出している」
世界各地の宗教家も、鏡を見ながら感じた。
「あの少年が持つ指揮棒から、とてつもない力を感じる」
「それに、あの少年の輝きは・・・彼は・・・神か?」
そう感じた時点で、誰も言葉が出せない。
また、世界各地の鏡の前に、楽器を持って集まって来た音楽家や声楽家たちも、スマホに映る光から目を離せない。
「あの少年は・・・神か・・・・見ただけで圧倒される」
「それに、あの輝く指揮棒・・・あの指揮棒で音楽を奏でたい」
光は、目を閉じて深呼吸。
そして、ゆっくりと指揮棒を構えた。
大指揮者の小沢が、目を見張った。
「うわ!構えただけで、あの力感!」
「腕の張り、背筋が通って胸を張り、脚を踏ん張って」
11月23日、午後7時の開演時刻と同時に、光は、指揮棒を振り下ろした。
厳しい響きの冒頭、そして低音楽器の荘重な動きで、聴衆全員が一瞬にして、姿勢を正す。
それと同時だった。
全世界の鏡が、目を開けていられないほどに眩しく輝き、その中心部から一本の光線が天空に向かって伸びて行く。
NASAをはじめとして、世界各地の研究施設は、その光線が向かう角度の分析を、即時に開始した。
「世界各地からの光線の集結点がある」
「その集結点は、日本の東京、日比谷公園の野外音楽堂上空」
「そして、そのまま一本の光線と化して、宇宙に向かっている」
「その向かう角度を見れば、例の大隕石の方向」
「それにしても・・・こんなことが・・・」
ローマ教皇は、祈りを続けている。
「滅びの日の解除を、かの少年へと、お告げがあった」
「まぎれもなく十字架を背負ったイエス様と、聖母マリア様が夢に現れた」
「神の神からの命令と、おっしゃられた」
「かの少年にしか託せない呪文、魔術式とも」
第一楽章の中頃だった。
NASAの機器が、また新たな兆候を捉えた。
「例の光線が、大隕石に到達したようだ」
「実に細かく、大隕石を破壊し始めた」
「とにかく大きい隕石、だから一気に爆破をすると、宇宙全体のバランスも崩れる、地球とて無害ではない、隕石のカケラ程度でもぶつかれば被害は甚大だ」
様々な想いの中、光は時には激しく、時には流麗に指揮棒を振り続けている。




