コンサート開始直前(2)
「うん、すごいや」
春奈は、光の背中を見て、身体が震えた。
ソフィーも、その顔を紅潮させる。
「光君、本気になってる、オーラがすごい」
ルシェールは手を組み、光の背中に祈る。
「阿修羅様、そしてマリア様、光君をお守りください」
また、光のステージへの接近に伴い、世界各地に設置された鏡に異変が発生し始めた。
「急に点滅し始めたよ」
「その光が、鋭くて眩しい」
「光線の準備運動なのかな」
その異変に気づきながらも、人々の祈りは止むことがない。
とにかく、懸命に、それぞれの言葉で地球の存続を祈り続ける。
NASAをはじめとする、世界の観測機関も鏡の異変を察知した。
「鏡の中心に不思議な動きが発生し始めた」
「らせん型の回転のような動き」
「今までの祈りの声や音の振動の集約が始まった」
「とにかく、もの凄く速い回転になっていて、その速度も増している」
演奏開始5分前になった。
光は、ステージ袖口、音楽部の顧問、祥子先生の隣に立った。
祥子先生が光の肩を揉む。
「光君、緊張する?」
「もう、客席は超満員」
「客席の外まで、あふれているよ」
光はうれしそうな顔。
「そのようですね、後は、思いっきり振るだけです」
開演3分前になった。
祥子先生は、光から、少し離れた。
それは、光の心の集中を乱したくないため。
光も、祥子先生に少し会釈。
そして、指揮棒を手に、目を閉じた。
「ありがとう、父さん」
「この指揮棒なら、安心して振れる」
「母さんにも来てもらいたかったけど・・・」
「天国で聴いているかな」
「でも、今は、そんなところじゃない」
「地球を守らないと」
「阿修羅君と一緒に」
光はゆっくりと深呼吸。
そして、その目を開けた。
開演のブザーが鳴った。
光は、祥子先生に少し頭を下げた。
その祥子先生の後ろに、春奈、ソフィー、ルシェールも見えたので、笑いかける。
「行きます」
見守る全員に、小さな声でつぶやいた。
光は、胸を張った。
そして、そのままステージの中央に向けて、歩き出す。




