コンサート開始直前(1)
本番開始前のリハーサルを軽めに行った後、音楽部も合唱部も全員、特製海鮮散らし寿司を食べる。
叔母奈津美もニケも華奈の母美紀も手際よく、全員に散らし寿司を配っていく。
叔母奈津美は光に説明する。
「駿河湾直送の魚介類と、御殿場のコシヒカリ、お茶も静岡産」
光も食欲がはずむ。
「ほんと、完璧、さすがだよね、酢飯も甘過ぎず」
音楽部と合唱部の面々は、光と奈津美に注目。
「ほんと、よく似ているよね」
「実の叔母さんなんだって、伊豆で温泉旅館を経営しているって」
「へえ、温泉?いいなあ」
そんな声が耳に入ったのか、奈津美が大きな声。
「みんな、光君と演奏してくれてありがとう」
「演奏会が終わったら、みんなで私の温泉においで」
「ごほうびで、無料招待する」
そのお誘いに、音楽部も合唱部も大歓声。
ますます、食欲が増している。
そんな賑やかな食事が終わり、光は全閣僚が待つテントに、ようやく出向く。
光は、それでも、しっかりと頭を下げた。
「高校生のオーケストラと合唱部ですが、懸命に演奏します」
「本日は、本当にありがとうございます」
首相が光の手を握る。
「いや、期待しています」
「小沢先生も太鼓判で」
「それと・・・大隕石を」
光も、しっかりと頷く。
「はい、いろんな声掛けと協力、ありがとうございます」
「もう大丈夫です、世界の人々にも、祈っていただければ」
官房長官がタブレットで、日本から世界各地の鏡の前の様子の動画を見せる。
「これもすごい集まりになっています」
「誰も邪魔する人が、いません」
光は、首相と全閣僚に再び、頭を下げた。
「ありがとうございます、楽屋に戻ります」
「演奏、ご期待ください」
そして、踵を返して、楽屋に向けて歩き出す。
その後ろ姿を見ている首相が、全閣僚に声をかけた。
「みんな、拍手!拍手で送ろう!」
どの閣僚も素直に、大きな拍手を送っている。
さて、光が楽屋に戻ると、春奈とソフィー、ルシェールが待っていた。
春奈が光の肩を揉む。
「偉い人と話をして疲れた?」
光は、素直に肩を揉まれている。
「春奈さん、案外上手、緊張したけど、拍手された」
春奈が「案外って何さ」と聞き返そうとすると、ソフィーが遮る。
「他の巫女は、全員が演奏者だから、すでにステージに」
「楓ちゃんは、彼氏の斎藤さんと一緒で客席に」
「奈津美さんもニケも美紀さんも全員、最前列」
「私たちはアンコールだけなので、ここに」
ルシェール、温かい濡れタオルで、光の顔を拭いた。
「さっぱりする?ユーカリをしみこませたよ」
光は、またうれしそうな顔。
「うん、演奏前にありがたい」
音楽部の顧問祥子先生が、光の楽屋に入って来た。
「光君、あと10分後、そろそろ・・・」
リラックスしていた光は、楽屋を出て、ステージ裏に歩き出した。




