父からの指揮棒と、滅びの日の解除の呪文
光は大騒ぎする華奈を、やさしく諭した。
「これは、みんなの前で」
「すごく大切なものなの」
華奈は、これでは仕方がない。
「はい、光さん」と、しおらしく光とリビングに戻った。
光は、リビングのピアノの前に、父から宅急便で送られた小箱と、ローマ教皇からの手紙を持って、立った。
そして、ピアノの上に置かれた母の写真に語りかける。
「母さん、着いたよ、両方とも」
「さっそく、はじめる」
その光の様子を、巫女たちはじっと見る。
と言うよりは、光の動きが実にスムーズ過ぎて、誰も声がかけられない。
その上、光の父からの届け物と、光に届けられたローマ教皇からの手紙なので、ますます、一定の距離を置くことになる。
光は、丁寧に小箱を開ける。
すると、出てきたのは指揮棒。
光は、その指揮棒を手に持ち、うれしそうな顔。
「うん、メープルだね、振りやすい、しなやかで強くて、品格が高い」
光は続いて、ローマ教皇からの手紙を左手に持った。
そして、そのまま、メープルの指揮棒を手紙で包み込む。
すると、異変が起こった。
光が手に持つ父から送られた指揮棒と、それを包むローマ教皇からの手紙が、輝き始めたのである。
「うわ・・・眩しい・・・」
「目を開けられないほど」
「指揮棒、燃えている?」
「いや、赤く光ったり、白くなったり、金、緑、青、着、紫、いろいろに光って」
「あれ・・・」
「うん・・・手紙が消えた」
「どうして?燃えちゃった?」
巫女たちから、様々な声が上がる中、確かに指揮棒を包んでいたローマ教皇からの手紙は、消え去っている。
光が、おもむろに口を開いた。
「あのローマ教皇からの手紙、つまり滅びの日の解除の呪文は、このメープルの指揮棒に取り込んだの」
「ローマ教会が成立する前からの、相当古い呪文さ」
「呪文そのものに魔術式が組み込まれていて、それを正式に扱えるものに、同化する」
「今のは、メープルの指揮棒と、それと僕の中にも入った」
ソフィーが、光に尋ねた。
「そうなると、他の人がその指揮棒を持つと?」
光は、少し笑う。
「単なるメープルを切っただけの指揮棒」
「ただ、さすがに父さんが作ったから、本当に振りやすい」
そこまで話して、光は言葉を追加した。
「この指揮棒を僕が他の演奏会で振っても、単なる振りやすい指揮棒」
「あくまでも、今回のような地球壊滅の危機の時にだけ、その呪文の効果は、発揮する」
ようやく光の真意がわかり、巫女たちは再び緊張感に包まれている。




