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なくならないパンの奇跡

「聖母マリア様なのですね」

ルシェールは、祭壇の前で、白い長衣の女性に声をかける。

「はい、ルシェール、そうですよ」

白い長衣の女性は、しっかりと頷いた。

その手には、大き目のかご、その上には湯気が立つ白いパンが乗っている。


ルシェールは聖母マリアに問いかけた。

「聖母マリア様・・・そのパンは?」

聖母マリアは、やさしい顔。

「教会の前で、声をあげている人にわけてあげて欲しいの」

「はい、祈る人にも、怒る人にも」

ルシェールは、これは理屈ではないと、感じ取った。

聖母マリアから、白いパンの乗ったかごを受け取り、教会の門を開けた。


ルシェールは、全員に大きな声をかける。

「皆様、お集まりいただき、本当にありがとうございます」

「お声を出されて、お腹も減ったことでしょう」

「今から、パンをお配りいたします」


教会の前に集まっていた人たちは、喜ぶ人もいれば、首を傾げる人もいる。


「美味しそうなパンだ」

「いい香りがする」

「でも、こんなに人数がいるんだよ」

「すぐになくなるって」

「あの女の子、頭がおかしいの?私たちは反対運動しているのに」

「でも、反対運動する人には渡さないとも何とも言っていない」

「その前になくなるのでは?」


様々な声があがる中、ルシェールは、不思議な言葉を続けた。

「それから、このパンを受け取った人は、半分にちぎって、隣の人に」

「それを続けてください」


今度こそ、首を傾げる人が多いけれど、ルシェールは自分の前に立つ二人を手招き。

そして、ルシェールが白いパンを半分にちぎり、一人に渡した時点で異変が起きた。


「え・・・半分にちぎったはずなのに、すぐに一個分の大きさに?」

「うん、また半分にちぎって渡しても、すぐに両方とも一個分の大きさに」

「どういうこと?聖書の奇跡で・・・そんなのあった・・・」


ルシェールは、明るく大きな声をかけた。

「さあ、どんどん、ちぎって隣の人に!」

「パンはなくなりません!」


半分にちぎったはずのパンが、一つになる面白さもあったのか、あっという間に教会前に集まっていいた人たちの手にパンが行き届いた。

また、そのパンも美味しかったようだ。

「ふわふわで、ほんのり塩味」

「おなかにしっかりたまる」

「これ・・・奇跡だよね・・・」

「うん、聖書に書いてあった、なくならないパン」


お祈り反対派も、何も文句を言わなくなった。

「細かい理屈がどうでも良くなった」

「もともと、組織に強制されて来ただけだもの」

「それにしても、パンが美味しい」

「奇跡を前に、敵も味方もないよ」

「お礼の気持で、祈ろうかな」

「こんな美味しいパンを渡してくれた人を裏切る気にはならないもの」

「うん、鏡が、また輝きを増したよ」


ルシェールは、感激して、鏡に向かって祈り始めた。

今度は、お祈り派も反対派もなかった。

教会前に集まった人全員が、手を組み合わせて、お祈りを始めている。


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