世界の大混乱と、その変化 聖母マリアの奇跡
さて、大混乱を極める世界情勢の中ではあるけれど、不思議に、世界各地に設置された鏡を破壊するような暴動は起きていない。
これには、各国政府の為政者も、宗教指導者も、胸をなでおろす。
「やはり、大隕石に核攻撃が難しい以上は、よくわからないけれど鏡からの光に頼るしかないと思うのだろうか」
「政府からの説明に納得できず、反政府活動をしたとしても、地球が滅びるまでの僅かな間だけだ、だから意義は少ないと思うのかもしれない」
「各宗教施設の上の鏡設置は有効だった、やはり、そこを攻撃することは、誰しも難しい」
そして、鏡の素材や構造、製作方法を調べていた、複数の国際科学機関が、相次いで声明を発表したことも混乱を鎮めるのに、効果があった。
「実に興味ある鏡の構造と製作方法」
「人間の声の振動を、鏡の中に蓄積することが出来る」
「その振動を、ある一点で集約すれば、恐ろしいほどの威力」
「その集約力を高めれば高めるほど、核爆弾以上の力となる」
「あくまでも音による衝撃なので、核のような二次的影響は生じにくい」
「大隕石も、相当細かな状態で粉砕することも、可能性が高い」
複数の国際科学機関の発表の後は、また新たな動きが起こった。
政府施設や宗教施設の屋上だけではなく、学校や病院、各企業の施設の屋上にも、鏡の設置が始まったのである。
また、各地に設置した鏡の前で、声を出し、祈る人も、多くなっている。
さて、そんな情勢の中、光は厳しい顔が続いている。
「心配していたけれど、予想以上に、混乱が少なかった」
「でも、まだまだ油断が出来ない」
「もう少し、人の気持を集める手段が必要」
その光に、ルシェールが寄り添う。
「そろそろ、出現したいそうなんです」
「光君だけ、苦しませるわけにはいかないと」
そのルシェールの言葉に、光の顔が少し柔らかくなる。
「ありがたいよね、本当に」
ルシェールは、うれしそうな顔。
「とにかく、どこの十字架の上でも、どんな場所でも出たいとか」
「それが本望みたいです」
ようやく光が笑った。
「わかりました、お任せしますと、お伝えください」
その光とルシェールの会話があった直後だった。
世界各地に設置された鏡の上に、純白の長衣を身にまとった女性が出現した。
「あ・・・まさか・・・聖母マリア様?」
「あんなに腕を大きく広げられて」
「包まれているみたいで、安心する」
「じっと、こちらをみておられる」
「本当にやさし気なお顔で・・・」
撮影をする人も多い。
そして、一様に驚くのは、はっきりとその姿も顔も写真に映っていること。
「本当に、おられたんだ」
「神霊なんていないって・・・そんなことはなかった」
「はぁ・・・奇跡です」
「不思議だよ、祈りの声が大きくなればなるほど、お姿が明確になる」
「それと、身体に力がみなぎって来る」
聖母マリア出現の効果もあり、鏡の前で祈る人、そして祈りの声は、ますます大きさを増している。




