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光と晃子のリサイタル(5)

光からの厳しい「ダメ出し」を受けて、相当苦しんだ晃子は、光と練習再開後は、より深い苦しみを覚えている。


「うわー・・・練習が終わると、ヘトヘト」

「どうやって家に帰ったか、まったく覚えていない」

「服を脱ぐのも必死、そのままベッドにゴロンだよ」

「食欲もないし、マジにやせた」

「難しいなあ・・・ブラームス」

「譜面は超絶技巧はいらないけど」

「あのニュアンスが出せない」

「自分では、こう弾きたいと思うけれど、その音にならない」


伴奏者の光の表情も気になって仕方がない。

「光君、時々、ムッとした顔をする」

「唇を尖らして」

「少しため息をついたり」

「そういう時って、自分でも下手に弾いたと思った時もあるし」

「少し軽めに流した時もそう、嫌そうな顔をする」

「あーーー光君が怖いよ」

「それに、練習が終わっても、マジに冷たい」

「一緒にお食事でもと思うけど、女の子たちと、あっさり帰っちゃうし」



さて、晃子は、そんな状態で苦しんでいるけれど、光はのんきなもの。

「晃子さんも少しずつ、伴奏を聞くようになった」

「ニュアンスが乱れるのは仕方ない」

「今までは、目立つために演奏しかしてこなかったから」

「だから細かな心の動きを示す表現は難しい」


光と晃子の練習を聞いている巫女たちは、少し違う。

キャサリン

「いや、相当、深みが出ていると思いますよ、最初と全然違う」

「時々軽いけど、今のままでも、充分聴けます」

サラ

「ブラームスは、少々屈折を心に抱えている人の方が、その音楽がわかる」

「光君にダメ出しをされて反省をして、その屈折が力になっているのかも」

春麗

「確かに、音が渋めになって来た」

「時々は、グッと心に沁みる音とかフレーズがある」

「これも、光君の効果だよ」

由紀は、また別の視点。

「恋人にすがる女性の演奏みたいな感じ」

「必死にすがって、時々甘えたり、落ち込んだり」

「その女性を、光君のピアノが突き放してみたり、抱き起してみたり」

「晃子さん、ヤバいかも、マジに惚れる女の目になっている」



その光が、晃子とようやく「練習後の食事」に応じたのは、リサイタルの前日だった。

光は、珍しくやさしい顔。

「晃子さん、厳しいことを言ってごめんなさい」

「もう、ほとんど大丈夫です」

晃子は、途端に目がウルウル。

「ありがとう、光君」

「久しぶりに必死に練習した、いろいろ考えて」

「すごく勉強になった」

光は、やさしい顔のまま。

「明日に備えて、体調を整えて、早めに眠ってください」

晃子は、うれしくてたまらない。

「ねえ、光君、リサイタル成功したら、またデートしてくれる?」

光は、フフッと笑う。

「さあ、知りません」

晃子は、そんな意地悪な光でさえ、可愛くて仕方がない。

ますます、欲しくなっている。

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