光と晃子のリサイタル(1)
信州、西伊豆への旅行も終了、翌日、光はヴァイオリニスト晃子とのレッスンのため、音楽大学に出かけることになった。
そして、いつものごとく、華奈が真っ赤な顔で怒る。
「光さん!晃子さんは魔女なんです!」
「くれぐれも、フラチな誘いに乗らないように!」
光は、華奈に尋ねた。
「ねえ、華奈ちゃん、そのフラチって、具体的には何?」
しかし、華奈は顔を真っ赤にして、答えられない。
「えーっと・・・フラチって・・・あの・・・フラチなんです・・・」
そんな、どうでもいいやり取りがあったものの、光が外出をするとなると、必ず由紀、キャサリン、サラ、春麗が警護につく。
光も諦めているので、もはや何も言わない。
それに、警護役4人がレッスン場所である音楽大学の推薦入学決定者。
結果として、全く自然に音楽大学の構内に入ることになったのである。
さて、光たちの一行が音楽大学の構内を歩いて行くと、すでに有名人のようで、音大の先輩方あちこちから声がかかる。
「諏訪大社は凄かったね!見たよ」
「厳かな雰囲気でよかった」
「あれをチャリティーなんて、もったいないなあ」
「マジに無欲だね」
「動画再生回数が100万越えだよ、意識している?」
光は、そんな言葉をかけられても、ただ会釈するだけ。
というよりは、言葉を返すのが面倒らしい。
「旅行疲れ、温泉疲れがある」が本音になっている。
実際、そんな愛想のない光よりは、「警護女子4人組」のほうが、よほど笑顔で、声をかけてくる先輩方に頭を下げている。
その光が、出向いたのは、音楽大学の小ホール。
すでに本番も近いので、出来るだけ本番のリサイタルホールと同じような音響のホールをレッスン場所とするようだ。
出迎えたのは、晃子とピアノ科教授で光の師匠の内田先生。
晃子は満面の笑顔。
「はい、今日は時間通り」
「警護役の皆様も、ありがとう」
内田先生もにこやか。
「光君はもちろん、諏訪大社でのあなた方も素晴らしかった」
「ゆっくりしていてね、一緒に聴きましょう」
さて、光はそのまま、小ホールのステージに立った。
そして、晃子と楽譜を確認。
光
「晃子さん、フランクとブラームスですよね」
「練習して来ました」
晃子は、ますます笑顔。
「ありがとう、光君とやりたかったの」
「少し地味な曲だけど、弾くたびに、いい曲だなあと」
光も素直。
「落ち着いた演奏にしたいなあと」
「内面の高貴さを表現したい」
晃子は、少し顔を赤らめる。
「うん・・・私は派手目な演奏が好きだったけれど」
「一度、本気で、そういうのを演奏したくて」
光がピアノの前に座ると、晃子はヴァイオリンを構え、目を閉じた。
そのステージの上の二人を見て、内田先生がつぶやく。
「派手目の晃子さんの、本当の試練が始まる」
小ホールは演奏開始前の緊張感に包まれている。




