華奈は珍しく光をしっかりホールドする。
光が危惧した通り、八ヶ岳の別荘からの出発は、朝食後の速やかなものとなった。
そして眠くて仕方がない光は、今日は華奈にガッチリとホールドされている。
また、光をホールドした華奈も、久々のことでうれしいのか、ホッとしたのか、出発後すぐに、眠ってしまった。
その二人を見ている巫女たちの反応は、概ね同じもの。
「兄と妹って雰囲気」
「のん気なお兄さんと、元気だけが取り柄の妹」
「でも、寝ていると華奈ちゃんって可愛い」
「もう少し真面目に巫女の勉強をすればいいのに」
「いつもミスして、光君が慰める、それで安心しちゃう」
「まあ、幼なじみだしね、ルシェールと同じくらい」
「それに甘えているの、華奈ちゃん」
しかし、そんなことを言っていた巫女たちも、いつの間にか眠ってしまった。
そして起きたのは、山梨県を過ぎて、静岡県の朝霧高原に入った頃。
「牛がたくさんいる」
「アイス食べたくなった」
「あらー・・・駿河湾が遠くに!輝いている」
「え?富士山が近い、大きい!」
「お刺身早く食べたい」
・・・などなど、車窓からの風景に驚いている時はよかった。
その目が華奈と光に向いた時点で、巫女たちの表情が変わった。
「華奈ちゃん・・・光君をムギュしてる」
「・・・最近、発達した、昨日お風呂で確認した」
「でも、私のほうが立派」
「ドサクサにまぎれて・・・」
「光君、寝ているだけ」
「華奈ちゃん、うれしそう」
「まあ、光君は寝ぼけて誰とそうなっているか理解していない、だから許す」
ただ、華奈の幸せは、一旦中断。
光のスマホが鳴り、光は話し始めてしまった。
「はい、光です、あ・・・晃子さん?」
相手は華奈が「魔女視」するヴァイオリニストの晃子だった。
その晃子の声は厳しめ。
「ほら!そこの寝ぼけピアニスト!」
「明後日は練習に来なさい!リサイタルが近いの!」
「今、何している?どこ?」
光は、いきなりでうろたえた。
「えっと・・・華奈ちゃんと・・・」
「今は静岡県、東名のどこか、伊豆に向かっています」
晃子の声がますます厳しい。
「え?何?華奈ちゃん?」
「華奈ちゃんとデート?」
「どういうこと?私なんて一回ちゃんとしたデートないよ」
「それ、ひどくない?」
「年増と思って馬鹿にしていない?」
光は必死に抗弁やら何やら。
「いや、そんなことはないです」
「とにかく明後日は行きます、ですからもう一度寝ます、眠いので」
と、アッサリと電話を切ってしまった。
すると華奈がニンマリと目を覚ます。
「ふふん、魔女撃退だ、マジにうれしい」
よほどの勝利の快感なのか、眠ってしまった光を再び抱え込んでいる。




