事件の解決と、綾子の光抱え込み。
結局、施設長、田中議員、そして、そば店の店主は、厳しい追及と証拠物件の提示により、自分たちの犯罪を認めるしかなかった。
その犯罪の大まかな構図は、以下の通りになる。
まず、諏訪神社の故事に詳しい施設長が「神使い復活文書」を作成し、諏訪神社の御頭衆に配布する。
今の時代には考えられない内容に驚いた御頭衆が、地域の顔役でもある、そば店の店主に相談をかける。
その、そば店の店主の裏の顔は、古くからの極道であって、日本各地の組織に顔が知られている。
その顔を使って、無戸籍の15歳の男の子を、日本各地から施設に集める。
その後、内々に「身代わりとなる神使いの男の子」が見つかった旨を、御頭衆に連絡。
そば店店主は、高額な代金を御頭衆から受け取り、孤児院の金庫に保管。
その高額な代金の中から、「口封じ料」として、田中議員に献金。
日本各地の極道仲間にも、その金の一部を「謝礼」として渡す。
もちろん、領収書など発行する類の資金ではないので、発行などは論外。
また、孤児院の金庫に現金を保管したのは、そば店よりは国税捜査が入らないためとの理由と、田中議員も秘書には秘密にしている資金なので渡せなかったなどの理由による。
要するに「諏訪神社の故事を悪用した怪文書」と、それを利用した極道と政治家による資金集めに他ならなかった事件である。
更に詳細な調査の必要があるため、施設長、田中議員、そば店の店主が警察に連行された後、光は岩崎義孝に尋ねた。
「今後は、ここの施設を何とかしたいですね」
「子供たちに罪はないと思うのです」
岩崎義孝は、即答。
「ご心配なく、我がグループで引き受けます」
「戸籍が無かった子供たちを含めて、万全のケアをします」
柏木綾子は、安心したような、一部不安のような顔。
「あの、いとこの玉雄君が助かったのはいいんですが」
「お金を渡してしまった御頭衆は、どうなるのでしょうか」
ソフィーは、難しい顔。
「結局は、人身売買に金を出して加担したっていうこと」
「それが未遂に終わったとしても、お金を出した時点で、問題がある」
「無罪かどうかは、今後の細かな捜査待ち」
微妙な表情の柏木綾子に華奈が声をかけた。
「まずは、問題解決でしょ?玉雄君が救われたんだから」
岩崎華も綾子に声をかける。
「ねえ、綾子ちゃん、綾子ちゃんって、蕎麦打ち名人って聞いたんだけど」
「私にも教えて欲しいの」
すると柏木綾子の表情が、明るくなった。
「うん!みんなに教えるよ」
「もう少し走ると、おばあさんの家があるの」
「そこで、蕎麦打ち体験しようよ」
これには、光も岩崎義孝も、他の巫女も異論がなかった。
昼食の蕎麦に満足していなかったし、騒動に巻き込まれて食べた気もしていなかった。
そのまま孤児院施設を出て、綾子の祖母の家で、蕎麦打ち体験をすることになったのである。
そこまでのサロンバスの道中、また眠ってしまった光を、柏木綾子がサッと膝枕で支える。
「光さんは、結局は人間が起こした犯罪と、途中から見抜いていた」
「だから、阿修羅に変化もないけど、推理力もあるのかな」
「こうして寝ていると、可愛い」
「私も真言立川流の生贄になりかけたのを救ってもらって、今度は玉雄君」
「何とかお礼したいなあ・・・ますます好きになった」
他の巫女がヤキモキする中、柏木綾子は光を抱え込んでしまい、全くスキを見せることがない。




