綾子は、上手に巫女たちに溶け込んでいるけれど・・・
華奈の思いや楓のイライラなど全くわかっていない光と、わかっていても「まあ、いいや、自分が追い出されるわけではない」と思っている巫女たちは、柏木綾子と、「超スンナリ」と仲良く暮らしている。
さて、今日は、綾子の蕎麦を食べる日。
光も実に感心している。
「蕎麦打ち名人だなあ、綾子ちゃん」
「父さんが作ってくれた蕎麦打ちマシーンいらないもの」
「綾子ちゃんが打ってくれたほうが美味しい」
春奈もしかり。
「手際がいいねえ、すごいや」
「蕎麦だけでなくて、つゆも完璧」
ソフィーも感心しきり。
「うん、こういうキリッとした蕎麦が好き」
「漬物を漬けるのも上手、さすが諏訪様だなあ」
ルシェールは綾子がもう一品作った「そば粉のガレット」に感心する。
「フランスにもあるけれど、綾子ちゃんの料理って、丁寧だから美味しい」
「今度、一緒に作りたいなあ」
由香利は、綾子に、信州名物おやきを教えてもらっている。
「だってさ、野沢菜や茄子、かぼちゃ、きのこ、切干大根、くるみ、小豆でしょ?中身が、マジにヘルシーだもの」
由紀は華奈よりも話しやすい感じ。
「私が相模の魚料理を教えるから、綾子ちゃんは信州料理を教えてね」
綾子も、うれしいらしく二人で教え合っている。
また、外国人巫女のシルビア、サラ、春麗も綾子の料理には全く抵抗がない。
シルビア
「一つ一つ、素朴な味なんだけど、心にしみる味、こういうの大好き」
サラ
「地中海料理とは全く違うけれど、これも素材の味を十分に活かすね、シンプルでいいなあ」
春麗
「とにかく胃にやさしいって感じ、絢爛豪華な食事の後は、より美味しいかなあ」
いてもたってもいられなくて、蕎麦などを食べに来た華奈は、また焦る。
「うーん・・・光さんは、蕎麦好きかあ・・・食が進んでいるもの」
「つゆが、関東風だね」
「奈良の蕎麦つゆと、全然違う」
「・・・しかし、私は蕎麦打ちも、蕎麦つゆも全然無理・・・」
「マジで焦る」
柏木綾子は、そんな焦る華奈に、笑顔でフォローする。
「大丈夫だよ、華奈ちゃん」
「私が蕎麦打ちも、つゆの作り方も教える」
「というか、希望者には全員かな」
「ここのお屋敷のキッチンは広いし、使いやすい」
綾子の笑顔が、あまりにも愛くるしいので、巫女の誰もうれしそうな顔になるし、それを見て、光もホッとするけれど、それでも全員の心に浮かぶのは、奈良に一人残る楓の文句顔。
春奈が全員の顔を見る。
「ねえ、大騒ぎされる前にお散歩しない?」
ソフィーも、珍しくすぐに賛同する。
「うん、それが正解、善は急げ、すぐに出よう、あのモニターが下がり始めているしさ」
確かに、リビングの大モニターが、スルスルと下がってきている。
これには、巫女全員が同じことを感じたようだ。
「きっと、楓が我々の良好な関係をうらやみ、耳をつんざくような文句を言ってくるに違いない」
そう感じて、巫女全員が立ち上がるけれど、ただ、光だけは、そう感じていないらしい。
じっと、少し厳しめの顔で、モニター画面を見つめている。