VS生贄復活集団(2)
日本でも有数の宗教史学者でもある美紀は、光に一旦目配せ、諏訪神社について語り出した。
「お諏訪さま、その諏訪信仰は、長野県の諏訪大社が中心となります」
「まず、諏訪大社は諏訪湖の周辺に四つの宮を持ち、建御名方神と八坂刀売命が祭神」
「さて、建御名方神は大国主命の息子」
「出雲の国譲りの神話では、天照大神の使いとしてやって来た建御雷命との力比べに負けて、遠く諏訪まで逃れて、この場所から出ないと誓ったとされている」
「その後、この地に祀られ、地元の美女である八坂刀売命を娶った」
「中世には武田信玄が社殿の建立を行うなどして、武勇の神として信仰された」
「それと、有名な御柱祭は、もみの木を山から切り出して、各宮の四隅に立てる行事」
「御柱には、神の依り代という説」
「建御名方神が、ここから出ないと誓ったので、その結界を示すと言う説もあります」
美紀の詳細な説明が続くけれど、光も巫女も、真剣に聞いている。
「それから、全国の諏訪神社は全神社の20%」
「新潟県1,522社、長野県1,112社から、九州の鹿児島県118社などの広域になっています」
「そして、話題になっているのは、今説明した出雲から来た建御名方神の伝承ではなくて、先住民系の『守矢神長』が祀る古代自然神の御左口神」
「諏訪神社は、実際は、二つの神信仰が重なっている」
「その由来として、伝承されているのは」
「出雲族は諏訪湖河口の下、古代に天龍川岸で先住民と戦った」
「その和議条件として、殺し合わず共存することを誓い、先住民系の守矢家を神長官として古くからの祭祀を託し、出雲建御名方一族は政治民生など司った」
「出雲族は稲作とタタラ鉄の技術をもっていたけれど、未知の山地での食料や薬草、寒冷地の住まいの確保には、先住者の協力が必要だったのかな」
「それから、不思議な話になるけれど」
「ユダヤ関係の人が訪れ『守屋山はユダヤのモリヤ』と語ったとの話もある」
「御頭祭という祭祀があり、童男生贄の伝承などの謎もそれに関係しているとか」
「つまり、生贄の童男はイサクの表現」
「古代イスラエルの失われた10支族の一つが紀元前にこの地にたどり着いたとか」
「古代ユダヤの衣冠や儀式と日本神道のそれは極似しているという説とか」
「もちろん、確定された話ではなくて、眉つばで、こじつけかもしれない」
美紀は、そこで諏訪大社の基本的な説明を終えて、光を見た。
光が頷いて話をまとめる。
「つまり、先住民系、狩猟民の文化の神祀りとして、童男を含む生贄神事の伝統があった」
「現代では馬の頭のはく製になっているけれど、それを古式に戻り、童男を生贄にしようとする連中」
「しかし、現代の世で、それを復活させて、何の意味があるのか」
「そんなことを言いふらす人に、何の利益があるのかを考えないといけない」
震えて下を向くばかりだった綾子が口を開いた。
「少し聞いた話ですけれど・・・」
「御頭衆の一族、つまり諏訪の地に長く根付いてきた一族の中で、まず15歳の男の子を、何人か選ぶ、その中に、いとこの玉雄君が入っていて」
「何人かの15歳の中から、卜占で一人を選ぶのが、しきたりなんだけど」
綾子の口が重くなった。
「ところが・・・最近・・・神隠しが多くなって」
「それも全て、15歳の男の子ばかり」
「それも・・・孤児の施設からばかりで・・・」
綾子がそこまで、語った時だった。
ソフィーが血相を変えて、家に戻って来た。




