音楽部顧問祥子の実に稀な至福の時。
アンコールは光と音楽部顧問祥子によるモーツァルトの連弾。
壮大なワーグナーの雰囲気をモーツァルトが軽やかに吹き流す。
それを聴く生徒たちも大喜び。
「うわ!おしゃれ!」
「祥子先生も上手だなあ、授業は怖いけど」
「光君もニコニコして、楽しそう」
しかし、少し寂しそうな顔をする生徒たちもいる。
「光さんの文化祭の演奏も最後なんだ」
「だから、祥子先生と連弾して、先生の顔を立てようとしたのかな」
「来年、来てくれるのかな、来ないと寂しい」
そんな声が上がるなか、アンコール演奏は終わり、音楽関係の全ての出し物が終了となった。
ステージの幕が下ろされ、光は祥子と一緒にステージの裏に下がった。
まだ緊張感が抜けない祥子に光が声をかけた。
「祥子先生、上手でした」
「一緒に出来て、一生の思い出になります」
すると祥子は、また顔が赤くなる。
「そんなうれしいこと言わないでよ」
「光君と連弾なんて、夢みたい」
「もうね、まだ心臓がバクバクしているもの」
光は、やさしい笑顔。
「僕は、祥子先生と連弾するのが夢でした」
「ずっと思ってたけれど、恥ずかしくて言えなくて」
そんな光と祥子の会話を聞いて、春奈は思った。
「光君の音楽の窓を、再び開いてくれたのが、祥子先生だった」
「巫女とか、そういう力はないけれど、光君は実は一番信頼していた先生かな」
「女性であることは、少し妬けるけど」
祥子が光を抱きしめた。
「本当にありがとう・・・まだコンサートはあるけれど」
「光君と連弾なんて、一生の思い出だよ」
「音楽家として、よみがえらせてくれた」
光は恥ずかしそうな顔。
「いえ、また一緒に演奏したいと思うんです」
「例えば、僕が指揮で、先生がソリスト」
「予約しておきます」
祥子は、光のやさしさに、泣き出してしまった。
さて、そんな光と祥子の姿を見て、特に年増女性たちは気に入らない。
ソフィー
「時間が長すぎるのでは?」
春奈
「抱き合うにしても人前では時間制限をするべきだ」
晃子
「私なんて、いつもスルッと逃げられる」
ただ、特に祥子にとって至福の光とのハグタイムも、すぐに終わった。
学園長から呼び出しがあり、冬のコンサートの打ち合わせをすることになったのである。




