表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/303

学園文化祭(2)

合唱部の指揮を終え、光は舞台袖口に戻って来た。

その光にニケがさっと、葉唐辛子のおにぎりを差し出す。

光は、本当に美味しいようだ。

むさぼるように、三つも食べてしまった。


ニケが光の肩をポンと叩く。

「よし!光君、成長した!」

「去年は、おにぎり二つなのが三つになった!」


光が恥ずかしそうな顔。

「そうなると僕の一年の成長って、おにぎり一つ分だけなの?」

「でも美味しいや、確かに」

「ニケさんのおにぎりって、母さんの味と同じ」

そして青白くなっていた顔に、赤みが戻る。


大指揮者の小沢が光に声をかけた。

「次はタンホイザー?楽しみにしている」

光は素直に頷く。

「はい、僕なりのタンホイザーに」

そして、ニケにウィンク。

「おにぎり一つ分の成長、お楽しみに」


ニケも含めて、舞台袖口で全員が大笑いになると、音楽部の準備も出来たようだ。

司会進行の祥子が光に合図。

「光君、そろそろ」


光は、しっかりと頷いて、またステージの中央に向かい、歩いて行く。

その光を満員の聴衆からの大拍手が迎えている。


春奈がその背中を見て、つい皮肉。

「どうしておにぎりで元気が戻るのかなあ」

「実は単純な味覚?」

しかし、春奈もそれ以上は皮肉を言うことが出来なかった。


万雷の拍手を受け、光は指揮台に登り、「タンホイザー序曲」を振り始める。


タンホイザー序曲の冒頭で、大指揮者の小沢は驚いた。

「うわ・・・この落ち着き・・・」

「夢見るかのようなメロディを、実にしっとりと歌わせる」

「何と品格のあるワーグナーなのか」

「音楽の骨格の確かさ、そして大きさは、すでに大指揮者の風格がある」

「やはり聞き惚れさせる指揮者になれる、いや、もうなっている」


舞台袖口で聴くヴァイオリニストの晃子は、胸を押さえている。

「テンポといい、ダイナミクスといい、ニュアンスといい・・・」

「新鮮で、麗しくて、輝いている」

「あの歌心かなあ、心の奥底をしっかり掴んで揺さぶり、高まらせ」

「一旦掴まれたら、演奏者は光君の指揮棒のとりこ」

「光君の思いのままに演奏して、それがうれしくてしかたがない」

「はぁ・・・ソリストでなくてもいい、第一ヴァイオリンで光君の指揮で弾いてみたい」


光が進学する音楽大学の学長は、うれしい悩み。

「ピアニストでも超一級品、でも高校生のオーケストラでこれだけの大きな音楽を作り出す」

「光君が単独でオーケストラの団員を募集しても、すぐに団員が集まるよ、こんな魅力のある指揮だと」

「悩むね、光君の指導は・・・どっちを優先するべきなのか」


光が指揮するタンホイザー序曲は、音楽の専門家だけではない、クラシックなどほとんど聴かなかった高校生にまで、圧倒的な感動と衝撃を与えながら、フィナーレを迎えた。


そして光が指揮棒を降ろし聴衆に向き直ると、聴取全員が立ち上がって、大拍手。

そして、ブラボーの声と、アンコールを求める声が、全く止まらない状態になっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ