楓の恋(10)
光は、斎藤と楓をアパート屋上に設置したプラネタリウムに案内した後、あっさりと姿を消した。
斎藤
「二人きりになったね」
楓
「はい・・・ドキドキします」
斎藤
「でも、うれしい、遠くから来てくれて」
楓は涙ぐむ。
「逢いたくて、遠くて、辛くて」
斎藤
「うん、それは同じ」
楓の声が震えた。
「光君がOKしてくれたら・・・毎日逢えるように」
斎藤
「え?それ・・・」
楓は顔が真っ赤。
「高校を卒業したら、ここの家の空き部屋に」
斎藤の目が輝いた。
「それは、うれしいなあ、生きる気力が出る」
「オリンピックも見に来てくれる?」
楓の目も輝いた。
「はい!必ず!お弁当を持って!」
斎藤は、オズオズと楓の手を握ろうとする。
楓は、ますます顔が真っ赤。
「少し待って」と、奈良から持ってきた大きな鞄を開ける、
中から出てきたのは、白と青の柔道着。
「私が縫ったの、下手かもしれない」
斎藤は、本当にうれしそうに楓が縫った柔道着を手に取る。
「うわー・・・これは心がこもっている」
「それに・・・え?春日大社の御紋がそれぞれに縫い込まれて?」
楓はプラネタリウムを眺めながら祈るような顔。
「はい、武甕槌命様、経津主命様、天児屋根命様、比売神様の御祭神様に特別の祈願をして、縫い込みました」
斎藤は、その楓の手をしっかりと握る。
「もう、楓ちゃんなしには、生きていけない」
楓も斎藤の手をしっかりと握り返す。
「私も・・・ふつつかな私ですが・・・よろしくお願いします」
・・・と、楓の恋は、すんなりと実ってしまった。
さて、その楓の恋を、一階リビングでしっかり読んでいる巫女たちは様々。
華奈
「そうか、自分で縫った柔道着を手渡ししたいから、私には鞄を持たせなかったのか」
由紀
「そんなのすぐに感じないとだめ、私は改札口で楓ちゃんの鞄を見た瞬間、神々しいものが入っているって気づいたもの」
美紀
「本当にしつけを失敗した」
春奈
「いや、美紀さんはしっかりしつけるんだけど、華奈ちゃんが・・・」
美紀
「もっと言って、春奈さん」
由香里
「一度、再研修で華奈ちゃんと伊勢に籠りたいなあと」
美紀は由香里の手をしっかりと握る。
「助かります、お願いします」
華奈はむくれている。
「どうして、みんなそう?私の若さと美少女を妬んでいるってこと?」
そんな巫女たちはともかく、光は珍しく父の史に電話をかけている。




