楓の恋(6)
プラネタリウムで夜空を眺めながらのデートになるので、奈良から上京してくる楓は、当然、光の家に泊ることになる。
光
「父さんの部屋でいいかな」
楓は、声が震えた。
「うん・・・それを聞くと、またドキドキするな」
光
「じゃあ、大広間で女の子が全員、雑魚寝?」
楓はためらう。
「うーん・・・フラれたら・・・恥ずかしいし」
光
「そんなことないって、相思相愛だよ、もっと自信持って!」
楓はブツブツと文句やら何やら。
「それは・・・光君みたいに鈍感ではないんや、ナイーブや、本当は」
「相思相愛とか、自信持ってって言われると、それが壊れた時に立ちあがれなくなるんや、それ、わからん?」
「メチャ、プレッシャーになるんや」
光は、困った。
「じゃあ、来ないの?」
楓は、泣くやら怒るやら。
「もーーー!そういう無神経さがアホって言うんや!」
「乙女心を全く理解できとらん!」
「マジに張り倒したくなってきた」
光の「無神経」な対応に、呆れていたルシェールがスマホを光から取り上げた。
「楓ちゃん、光君にそれを期待しては無理」
「みんな巫女さんたち待っているよ、斎藤さんも花束を用意しているの」
「星空の下で、ゆっくりと二人きりで」
ルシェールの癒し声で、楓の不安な心は、すっかりほぐれた。
「ありがとう、ルシェールの声を聴くと、メチャ安心する」
「私の代わりに、光君のお尻を思い切り引っぱたいて」
ルシェールが笑った。
「あはは、心配なく!」
「今、春奈さんとソフィーが叩いている、それも布団叩きで」
「メチャ、痛そうな泣きそうな顔しとる」
楓がようやく笑い声。
「いやーーーその泣き顔見たいなあ」
「メチャ面白い顔になる」
「子供の頃から、それが楽しみで」
「じゃあ、土日に光君のお父さんの部屋に泊ります」
「お土産期待しといて」
と、ようやく「光の父の部屋に泊る」だけの、本来は用件のためだけの話が終わった。
光は春奈とソフィーに文句を言っている。
「何?どうして布団叩き?」
「叩かれる理由はある?」
春奈は全く文句を受け付けない。
「うるさい!この無粋男!」
ソフィーも同じようなもの。
「竹刀か、木刀でもよかった」
首を傾げ、まだ文句顔の光に、華奈。
「ねえ、光さん、これで楓ちゃんが失恋したら大変だよ」
「失恋を忘れようと、また暴飲暴食に走る」
「腹いせで、光さんにも私たちにも、暴言の限りを尽くす」
「それは大変でしょ?」
「だから、どうしても成功させたいの」
光は、素直に「うん」と頷き、華奈の手を、思わず握っている。




