大財閥当主と孫岩崎華は、落胆、蒼い顔に
岩崎華の祖父であり、大財閥の当主の激高、光たちへの暴言が突然、止まった。
岩崎華が、その祖父の前に立ちはだかり、泣き出したのである。
「お祖父様、違うの」
「この人たちは、何も悪くないの」
「悪いことをしてしまったのは、私と田島なの」
ソフィーが公案特別調査官の名刺を見せ、岩崎華の祖父、大財閥の当主に話しかける。
「お孫さんの言う通りです」
「送った動画をしっかり見なかったのですか?」
「ただ、お孫さんが座り込む場面と、田島源一が警察に連行される場面だけしか見なかったのですか?」
「その前にお孫さんが周囲の来店客を嘲笑する場面と、田島源一が、ここにいる高校生の男子の首を絞める場面などは、身分が違うからどうでもいいと?」
「しかしね、私も公安の身分、法の下の平等ということ、財閥であろうが普通の人々であろうが、犯罪事実は見逃すことができないのです」
言葉に詰まる財閥の当主に、ソフィーは言葉を続ける。
「今回の騒動は、マスコミも騒ぐでしょうし、財閥の評判にも良い影響はありません」
「それと、現在取り調べ中の田島源一の身体に、相当多い鞭の跡が確認されました」
「その鞭を振るった人についても、既に複数以上の名前が自供されたとか」
「暴行行為の疑いで、名前が出た全ての人が、取り調べ対象となります」
その身体を恐怖で震わせ始めた財閥の当主の後に、由香利の父が突然現れた。
そして、由香利の父が、大財閥の当主に話しかける。
「旦那、とんでもないことを・・・」
大財閥の当主が、怪訝な顔をすると、由香利の父が厳しい顔。
「お宅の子分の田島源一が、首を絞めた高校生」
「そして旦那が暴言を吐いた、その高校生と女性たち」
「この江戸を預かる俺が、命をかけても守らなければならないほどの、大恩ある御方たちだ」
大財閥の当主が、驚いて光たちに目をやると、由香利の父が凄む。
「いいか、旦那、俺が怒った時のことを知っているな」
「もちろん、非道な法に外れたことはしないよ」
「でもな、俺らが持っている大旦那の秘密」
「かなりな悪どい所業の数々は、いつまでもそのまま、とはいかないな」
大財閥の当主は、再び、顔が蒼く震えだした。
ソフィーが由香利の父、江戸の裏稼業を束ねる大親分に声をかける。
「へえ、大旦那、その秘密ってのは、興味あるねえ」
「じっくりと聞かせてくれない?」
大財閥の当主は、この様子には、いたたまれなくなったようだ。
孫の岩崎華を連れ帰ることもなく、顔を真っ青のまま、帰ってしまった。
岩崎華は、あまりのことに、泣き崩れてしまい、立ち上がることができない。
その岩崎華に、由香利が厳しい言葉。
「ねえ、お嬢ちゃん、泣けば許してくれるって思ってるのかい?」
「さんざん、わがまま放題してきたんだろ?」
「たまたま財閥の娘に生まれただけで、ガキのままじゃないか」
「ただただ、他人を見下し要求するだけ」
「それが上手くいかなければ、お屋敷に帰って、腹いせで田島源一を血が噴き出るまで鞭打ち」
「人の痛みなんて、どうでもいいんだろう?自分の腹いせができれば!」
そして、由香利は岩崎華に、言い切った。
「自分の足で帰んな?何時間かかろうと道に迷おうと、何があろうと」
「こっちに、送ってやるほどの義務はカケラもない」
「それとも、警察のお迎えかなあ・・・」
岩崎華は、ますます立ち上がることができないでいる。