晃子のお願い
「でね、光君、デュオしたいの、伴奏して」
晃子は、ますます身体を光に密着して、お願いを言う。
光は、晃子の肉圧と香水にヘキエキ状態、少しケホケホしながら答える。
「曲は決まっているの?僕も忙しいの」
「合唱コンクール、学園の文化祭、学園のコンサートもあるしさ」
晃子は、少々ムッとした顔。
「いや、それをね、光君と決めようかと、わざわざ来たの」
話が進まないので、ルシェールがスッと腕を二人の間にいれて、引きはがす。
「晃子さん、お願いするのは晃子さんですよね」
「それを大先輩だとか、わざわざ来てあげたとか?」
「曲を決めていないのは、光君と長い時間、ベタベタしたいだけなのでは?」
図星を言われた晃子は、「うっ・・・」と引く。
しかし、強気を持ってなる晃子は、すぐに盛り返す。
「だって、光君、可愛いし、ベタベタしていると、実にいい感じ」
そんなやり取りがあって、光は、ついに面倒になってしまった。
「バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス?」
「本番はいつ?」
すると、晃子は、あっさりと即答。
「えっとね、バッハとベートーヴェン」
「本番は、学園のコンサートの後でいいよ」
「会場は、望月梨花に頼んだ、おそらく上野の小ホール、光君の初リサイタルと同じ場所」
これには光も巫女たちも同じことを思った。
「じゃあ、何で押しかけてきてベタベタするの?」
しかし、晃子の話題は、あっさりと変わった。
それも、「光を誘惑したい顔」ではなく、今度は晃子が面倒そうな顔。
「ねえ、光君、ワグネリアンって知っているよね」
光は、素直に答える。
「うん、ワーグナー絶対主義者?とにかくワーグナーの音楽やら総合芸術を崇め奉る人」
「それがどうかしたの?」
晃子が渋い顔。
「それが、音大の理事になったの」
「もちろん、ワーグナーが悪いってことではないの」
「でもね、他の音楽を馬鹿にしたり、コケにする傾向がある」
「で、女好き、イヤらしい、スケベ」
「金満、キラキラ、ド派手タイプ」
「美食家、口臭が強い」
「とにかく強引、ごり押し大好きタイプ」
光は、目を閉じて聞いている。
「うーん・・・で、その人が何か?」
「会ってみないとわからないし」
「その程度のことで、どうにも」
「ワーグナー自身が、そんな感じだったから、真似しているのかも」
春奈が晃子に質問。
「強気の晃子さんが嫌がるんだから」
「何かされたとか言われた?」
晃子が下を向いたのを見て、ソフィーが気づいた。
「・・・って・・・もしかして、迫られてる?」
晃子の口がへの字に変化した。
そして、光の手を握る。
「ねえ、光君、助けて、しつこくて仕方がないの」
光は、珍しく素直に「うん」と晃子に頷いている。




