お茶の水駅界隈の散歩(3)湯島聖堂はあっさりと、神田明神に向かう。
光の一行は、聖橋を渡り、湯島聖堂に入った。
湯島聖堂は、徳川五代将軍綱吉が儒学の振興を図るため、元禄3年(1690)湯島の地に聖堂を創建、その後、100年を経た寛政9年(1797)に、幕府直轄学校として、世に名高い「昌平坂学問所」となったものに由来を持つ。
光が大きな中国風のお堂を見て、
「これが江戸時代の東京大学、相当優秀な学生が集まったところ」
と説明をすると、やはり中国出身の春麗が話し始める。
「孔子廟とか神農廟とかがあって、確かに我が中国の影響が強いと思います」
「日本の社寺とは、相当異なる内部」
「ここでは、孔子とか神農についての話は、語り尽くせないけれど」
「中国人の私としては、こういう文化が日本に伝わって残っているだけでも、うれしい」
「遣隋使、遣唐使の時代から、いや調べれば、もっと古い時代から日本との関係はあったと思うけれど」
ソフィーが春麗の話を受けて続けた。
「神道の様式には、道教の様式も、相当入っているし」
「日本書紀や古事記も、道教の影響が強いと言う説もある」
「そもそも天皇という言葉も、実は道教から」
「ここは儒教の聖堂になるけれど、儒教も長く日本の歴史に深い影響を与えたのは確定している」
「そもそも、漢字が中国からの輸入でもあるから」
ただ、他の巫女たちは、キョロキョロするばかりで、あまり興味がないようだ。
「ここ、静かだね」
「うん、自然が豊か」
ぐらいで、話が弾まない。
やはり、すぐ近くの神田明神に行きたくなってしまったようだ。
光は、その巫女たちの表情を読んだ。
「じゃあ、神田明神にお礼だね、行こうか」
すると元気を取り戻した華奈が、即反応。
「はい!甘酒飲みたい!それからお団子!」
その華奈に、本来はもっと説明するべき春麗が反応。
「うん!ラブライブの聖地!憧れなの!」
その巫女二人に、春奈は呆れた。
「あのさ、ここは真面目な学問所だよ」
「どうしてそう・・・」
その春奈の肩を由香里がトンと叩く。
「無理です、まず春麗が踊りたいみたい」
「ステップ踏んでいますもの」
他の巫女も、春麗がその状態であるので、仕方がなかった。
結局、真面目な湯島聖堂の見学は、あっさりとしたものになり、神田明神に向かうことになった。
由紀が、少々不安な顔で、光に声をかける。
「ねえ、マジにアイドルするの?神田明神で?」
「光君、曲知っているの?」
「伴奏楽器とか無いしさ」
光は、そこで苦笑、上空を見上げた。
「楽器?空に浮かんでいる」
光の言う通りだった。
巫女たち全員の目に、神田明神の上空に浮かぶ雲、その雲の上には八部衆が全員、楽器を持ち、手を振っている姿が、はっきりと見えている。




