お茶の水駅界隈の散歩(2)ニコライ堂
光の一行は、ニコライ堂に到着した。
ニコライ堂は、神田駿河台にある日本ハリストス正教会復活大聖堂の俗称で同教会の本部、設立者ニコライ大主教の名に由来する。
1884年に着工し91年に完成。
関東大震災で被災したけれど、1929年に復興した。
大戦中は、大聖堂とその境内地の建物は空襲の被害は免れ、独特の中央ドームと鐘の音で有名な歴史的建造物である。
さて、サラはギリシャ出身。
聖堂の中に入り、一行に説明を始めた。
「さて、ハリストスというのは、キリストの意味」
「正教会は、オーソドックス・チャーチ、つまり正しく、伝統的な教会の意味」
「ローマ・カトリックは、このオーソドック・チャーチから分派したもの」
「ローマ・カトリックやプロテスタントが西ヨーロッパ中心に広がったのに対して、正教会はキリスト教が生まれた中近東を中心に、ギリシャ、東欧、ロシアへ広がったことから、東方教会と呼ばれることもあります」
「また、正教会はギリシャ正教とも呼ばれることがあります」
「この場合は、ギリシャの国の正教会との意味ではなく、正教会が育ち成熟したのがギリシャ文化の中である、という意味」
「そもそも、新約聖書はギリシャ語で書かれましたし、教義の確立もギリシャ語」
「その後は各国に伝道、信仰の内容は同じですが、それぞれに独立、しかし権威の優劣はありません」
「ギリシャであればギリシャ正教会、ロシアであればロシア正教会、アメリカであればアメリカ正教会、日本では日本正教会と言われます」
光はサラに質問をする。
「ねえ、サラ、例えば、ローマ・カトリックとの違いは?」
サラは、少し苦笑。
「うーん・・・言い切れないけれど・・・」
「簡単に言うと、ローマ・カトリックが全世界の最高権威と主張するローマ法王を、正教会は認めていません」
「つまり、キリスト意外には、世界の最高権威は存在しないという立場」
「カトリックが妻帯司祭を認めないことに対して、正教会は妻帯者を司祭に任命できる」
「他には十字架のきり方、聖堂の建て方、美術に対する姿勢とか、いろいろです」
「たくさんあって、言い切れません」
少し返答に困るサラに、同じギリシャに関係が深いソフィーが助け舟を出す。
「詳しくは、まとめた冊子があるので、それを読んでね」
「確かにキリスト教発祥の地、歴史が深すぎて、とても簡単には説明が出来ないの」
ルシェールはローマ・カトリックに属するけれど、その冊子を手にする。
「うん、読まないとわからないし、それで考えればいいこと」
「かつては、酷いこともあったけれど」
「そもそも、敵対すべきではないし、それをイエス様もマリア様も望んでいない」
さて、そんな真面目な話がある中、華奈は聖堂内をふらふらと歩き出す。
「わーー!素敵なステンドグラス!」
「こんな素敵なステンドグラスの中、光さんとデートしたいなあ」
「他の意地悪で、講釈ばかりの年増女なんて、どうでもいいから」
「何となく、あやふやだけど、ルシェールが強くなって諦めていた妻の座が、一夫多妻論で復活したみたいだから、デートにも望みがある」
「となると、一番若くて可愛い私が、実は最短距離かもしれない」
・・・など、他の巫女が聞いたら、「思い切りお尻をひっぱたく」言葉を連発するけれど、幸か不幸か、それはなかった。
「あっ!」と後ろを振り返ると、光も巫女も誰もいない。
「えーーー!どこ?」と焦る華奈のスマホに、春奈からのメール。
「もう、おバカなことを言っていたから、先に出たよ」
「もうすぐ聖橋」
「早く出ないと、そこお化け出るって」
「あーーー!また意地悪された!」
華奈は、聖堂内を猛ダッシュ、教会の人にも呆れられている。




