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光のプロ初演奏

光が舞台裏に入った。

特に緊張もなく、静かな雰囲気のまま。

ルシェール

「巫女さんたちは、舞台裏で聴くよ」

「会場は満員なので」

光は静かに頷き、少し離れた場所に立つ巫女全員に頭を軽く下げる。


開演五分前のブザーが鳴った。

望月梨花が客席を見ると、すでに全員が着席している。

首相、官房長官、文部科学大臣、アメリカ、ギリシャ、中国、フランスの大使の顔も見える。


開演一分前、椅子に座っていた光は立ち上がった。

少し背伸びをしたり、指を動かしたりする。


光は、もう一度巫女全員と望月梨花に軽く頭を下げた。

そして、そのまま、ステージに、その中央のピアノに向かって歩き出した。

聴衆から、大きな拍手が起こっている。


光の後ろ姿を見た、叔母圭子は確信する。

「うん、気合がしっかり入っている」

叔母奈津美も頷く。

「そう、あの後ろ姿の時の光君は最強」


光はステージの中央、ピアノの前に立ち、聴衆に向かって深くお辞儀。

そして、ピアノの前の椅子に、ゆっくりと腰を下ろし、姿勢を正し、鍵盤に指を置く。


極上のドビュッシーが始まった。

「二つのアラベスク」から始まり「牧神の午後への前奏曲ピアノ独奏版」、「映像第一集」、「映像第2集」が前半。

後半は、「夜想曲」、「12のエチュード」、それから「ベルガマスク組曲」。


光は静かな顔で、丁寧に情感を込めて、ドビュッシーの魅惑を弾き続けた。

聴衆は、光の全ての鳴らす音、紡ぎだす詩情あふれる音楽に魅了された。

全てにおいて優雅、典雅、言葉では言い尽くせない極上の音楽が最後まで続いた。


光が全ての曲の演奏を終え、ステージの中央に立つと、聴衆全員が立ち上がった。

そして、光がお辞儀をすると、地鳴りのような拍手、そしてアンコールの大合唱。


ルシェールは、お辞儀から顔を上げ、舞台裏に戻って来た光に駆け寄った。

「光君!すごかった!」

ルシェールは、涙で顔が真っ赤になっている。


光は、珍しく疲れた顔を見せない。

巫女全員と望月梨花に頭を下げる。

「支えてくれてありがとう、やっと第一歩」

その顔は、やさしい笑顔のまま。


ルシェールは涙顔のまま、光に冷茶と干し柿を渡す。

光の顔が、本当にうれしそうに変わる。

「うん、ありがとう、美味しくて飲みやすい、干し柿もずっと食べたかった」


その光を見たニケは、珍しく大泣きになっている。


望月梨花が光に声をかけた。

「光さん、アンコールを」


光はにっこりと頷く。

そして、また地雷のような拍手を受けながらステージの中央に。

聴衆に一礼をして、ピアノを弾き始める。

「ショパンのノクターン第一番」だった。


「菜穂子さん、お母さんの得意な曲」

圭子が言うまでもなかった。

これには巫女全員が泣き出している。

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