演奏開始前(2)
リハーサルを終えた光は、控室に戻った。
待機していたルシェールが、ニケが握った葉唐辛子のおにぎりと、煎茶を光に渡す。
光は、本当に美味しそう。
「これは・・・シャキッとなる葉唐辛子、お米も海苔も完璧、ニケの味」
「二つ食べるかな、元気になる」
「この煎茶はルシェール?川根だね、甘味があるもの」
ルシェールは光の食べる姿が、うれしくて仕方がない。
お茶を飲み干してしまったので、また注ぐ。
それを光がまた本当に美味しそうに飲む。
「これが幸せかなあ、恋人の時期は少なかったけれど、今さら文句を言っても仕方ない」
「こうして光君を見ているだけで、心の奥から幸せがあふれてくる」
ルシェールが時計を見ると、午後6時20分。
開演まで、40分。
あと10分すると、開場時間になる。
ルシェールは、そっと光に声をかけた。
「光君、そろそろ着替えようか」
光も素直に頷く。
「セットとかお願い」
そこでルシェールは、プッと吹いてしまった。
「ねえ、光君、去年のクリスマスコンサートの時」
光の顔が真っ赤になった。
「うん・・・」
ルシェールも顔が赤い。
「初めての本格的なキスだったよね、光君」
光は、「うん」と頷くだけ、顔が赤い。
ルシェールの声が震えた。
「光君を無理やり抱きしめて、イエス様が調合した秘薬を口移しで」
光は、ルシェールを抱きしめた。
「ドラキュラとの闘いで、力を使い果たして死にそうだった、ほぼ死んでた」
「でも、ルシェールが聖母マリア様とイエス様いお願いして、助けてくれた」
「だから、生きているのは、ルシェールのおかげ」
「でも・・・その後、髪の毛を整えないで、そのまま指揮棒を振っちゃった」
ルシェールは、目を閉じた。
光の唇が、ルシェールの唇にゆっくりと重なった。
開演30分前となった。
光は、ルシェールが縫ったステージ衣装に着替えた。
ルシェール
「どう?着やすい?」
光
「うん、着やすいし、動きやすい、ありがとう、ルシェール」
ルシェールは薔薇のような笑顔。
「いえいえ、当然、妻ですもの」
控室のドアがノックされた。
望月梨花だった。
ルシェールがドアを開けると、望月梨花が笑顔。
「超満員です、おめでとうございます」
光は、丁寧に頭を下げた。
「本当にご準備ありがとうございます」
「そろそろ、舞台裏に」
光は、やさしい顔のまま、楽屋を出て、歩き出した。




