井の頭公園散歩(2)
さて、ルシェールは、かなり焦っている。
「うーん・・・マジに春麗が可愛い、ミニスカが実に似合う」
「光君が無粋で良かった、でも絵になるなあ・・・危険、あのツーショット」
そのルシェールの肩をソフィーがポンと叩く。
「ほら、おっとりしていないで、春麗も本気になったら半端じゃないよ」
「何しろ中国四千年の仙力を秘めているから」
春奈も、いつもの皮肉。
「ほんと、無常の世の中だ、ルシェールの時代は続くのだろうか」
「私は、1年は持ったなあ」
ルシェールは、そんな年増二人が気に入らない。
「ソフィー?光君に怒っているイメージしかない」
「春奈さんもねえ・・・よく文句を言って苦しめていたよね」
「そのフォローをしていたのは私なの」
他の巫女たちも、光と春麗の「絵になる姿」に見とれるやら文句を言っていたけれど、その雰囲気を改善したのは、由紀だった。
「ねえ、せっかく広い公園にいるんだからさ」
「みんなで歌わない?」
「アカペラのコーラスにしようよ!」
「光君は指揮して!」
光の対応は、実にスムーズだった。
スルッと春麗の腕から離れ、巫女全員を手招きで集める。
「何の曲にする?」
「最初は、コラールみたいなのに?」
「カッチーニにしよう、慣れているから」
そして、光が指揮を始めると、そのまま「カッチーニのアヴェマリア」が始まった。
「きれい・・・」
「和声がピッタリ」
「はぁ・・・癒される」
光と巫女たちの合唱は、井の頭公園を散歩していた人たちの関心を集めた。
曲の終わりの頃には、100人以上の人が集まっているし、それ以上の人が集まって来る気配。
光も巫女たちも、これでは仕方ないと思った。
「モーツァルトのアヴェ・ヴェルム・コルプス」を歌い始める。
「・・・みんな天使みたい」
「泣けてきた」
「天上の音楽だ」
「ここに来て良かった」
曲が終わると、300人以上の「聴衆」になっている。
少し困った顔になった光に、ソフィーがそっと声をかけた。
「ねえ、光君、これが限界、やめたほうがいい」
光も、素直に頷く。
「中には迷惑に思う人もいるかも」
春奈は、公園事務所から歩いてくる人に走り寄った。
「すみません、あまり大きな声にはしませんでしたけれど」
さて、公園事務所から歩いて来た人は、意外に笑顔。
「いや、ご心配なく、光さんでしょ?東京駅の演奏見事でした」
「実はファンです、ありがとうございます」
光にそのまま握手を求めている。




