平穏な日々が続く中、光は夜空を見る。
東京駅丸の内南口広場でのストリート演奏後は、しばらく平穏な日が続いた。
光は、高校3年生としての通常の授業を受け、放課後には音楽部で指揮をする。
また、週末には音楽大学に出向き、内田先生からのレッスンを受けたりする生活。
それでも、来月には、光のプロデヴューの日が来るので、気を抜くことが出来ない。
また、懸念された光のプロデヴューについては、他の音大生との演奏力の違いから、ソロリサイタルに変更された。
演奏会場は、スポンサーになった大財閥の当主岩崎義孝の尽力により、上野のコンサートホールの小ホールに決定。
プログラムについては、光の希望通りに、ドビュッシーのピアノ曲で構成されることになった。
マネージャーのルシェールの仕事も、全く順調。
「すでに売り切れ」
「音楽関係者だけで300人のホールは埋まってしまった」
「関連グッズの制作と販売は、光君が写真を嫌がったけれど、無理やり撮ったし、望月梨花さんが完璧なのを作ってきた」
「問題は光君の健康管理かなあ、大丈夫とは思うけれど」
そんなルシェールの部屋に、夕食後、ソフィーが来た。
「警備計画は出来たよ、この間のストリート演奏同様に、江戸の大親分も協力をしてくれるって、二つ返事でね」
ソフィーもルシェールと考えることは同じだった。
「ところで、光君の体調はどうなの?」
ルシェールは、「大丈夫とは思うけれど」と言いながら、不安を言う。
「食欲は見ての通り、あまり変わらない」
「でも、由紀さんが言っていたけれどね、夏は炎天下でコロリと倒れ、寒くなれば顔の半分を隠すようなマスク姿になる、それが不安」
ソフィーも腕を組む。
「以前のコンビニ食生活、それも食べたり食べなかったりよりは、食生活は改善していると思うけれど・・・活動量も違うよね、格段に増えている」
ルシェールは悩んでいる。
「ストリート演奏の時も、結局疲れて、ほとんど食事が出来なかった」
「朝食は食べたけれど、昼以降は、葉唐辛子のおにぎりだけ、作ってあってよかった」
ソフィーは分析をする。
「お母さんが生きていた時代は、子供の時で、食欲が旺盛な時機」
「でも、亡くなってしまってからは、お父さんんもほとんど家にいないので、コンビニ食生活、それも飽きてしまったのかな」
「それで、単純に簡単に美味しさを感じるサンドイッチ、それもフルーツクリームサンドイッチ」
「葉唐辛子のおにぎりにしても、味の構成は単純だよ」
ルシェールはため息。
「ガツガツと食べる光君を見てみたい、せめて楓ちゃんの半分でもいいけれど」
ソフィーは苦笑。
「ほんと、食べ物が口の中に飛び込んでいくくらいに、楓ちゃんは食べる」
「光君は、噛みしめ、噛みしめ・・・結局残す」
ルシェール
「春奈さんも苦労したんだろうね」
ソフィー
「うん、その面ではね、でもルシェールなら何とかできる」
「光君の表情は、すごく自然だもの、春奈さんと私の前だと引いていたもの」
ルシェールとソフィーが、やや難しい話をしていると、春奈から連絡が入った。
「ねえ、光君がね、アパートの屋上で、夜空を見ているの」
「少し寒いんだけど、薄手のシャツだけ、何か上に羽織るものを持って来て」
「絶対に風邪引くから」
ルシェールとソフィーは顔を見合わせ、さっそく光のスタジャンを持ち、アパートの屋上まで急ぐことになった。




