光のプロデヴューに新たな動き
音大の学長、大指揮者小沢、名ピアニストの内田は、光のゴールドベルク変奏曲演奏を聴き、また別の考えを持つ。
音大学長
「プロデヴューで、他の音大生と一緒のステージにと思ったけれど」
小沢
「そうですね、レベルが違い過ぎる、学生のレベルではない」
内田
「そのまま単独でリサイタルにしましょうか」
音大学長
「ドイツ物も、ドビュッシーもこなす、至上の音楽にしてしまう」
小沢
「ジャズもロックも上手です、まさにミューズ神の化身」
内田
「ショパンを弾かせても泣かせられます」
音大学長
「菜穂子さんか・・・生きていてくれれば、どれほど喜ぶかなあ」
小沢
「彼の悲しみと苦しみの原因でもあって・・・」
内田はため息をつく。
「いつかは乗り越えさせたいんだけどね、繊細な子で」
音大学長
「もう、スポンサーが挨拶に来たよ、それもすごいスポンサー」
小沢
「その不安がないだけでも、幸せだな、光君は」
内田
「とにかく光君と、マネージャーの意見も聞きましょう」
小沢が難しい顔。
「時々、引っ込み思案になるなあ、他人に気を使いすぎることがある」
音大学長
「でも、他の音大生とレベルが違い過ぎる、とても新人披露コンサートにならないよ、逆に他の出演者が気落ちする」
光のゴールドベルク変奏曲は、最後に夢見るような儚さの中、終わった。
少し顔を伏せながら、光が立ち上がると、レセプションホール全体に拍手、そしてアンコールの声。
ただ、光は、疲れているようで、顔がまた青い。
その光にルシェールが耳打ち。
光は、素直に頷き、またピアノの前に座る。
そして弾きだしたのは、ショパンのノクターン第一番。
まず、楓が泣き出した。
「菜穂子おばさんが、よく弾いてくれた曲、光君が菜穂子おばさんをずっと見ていて・・・」
華奈も、涙を抑えられない。
「光さん、お母さんを思って、感謝して弾いている」
ルシェールが楓と華奈の隣に立った。
「光君、かなり疲れているけれど、この曲なら弾くと思ったの」
音大学長は、またため息。
「コンクールもいらないかな、そのままデヴューでいい」
小沢
「順位の対象にしたくないな、音楽が汚れる」
内田
「今は、内容勝負の時代です、こんな至高の音楽に順位は不純で無粋」
光は、ショパンのノクターン第一番の演奏を終え、また大きな拍手に包まれるけれど、やはり体力、気力の限界が来たらしい。
立ち上がって少しよろける。
その光を、ルシェールがさっと支える。
結局、光に近づけなかった望月梨花が司会。
「それでは、光君の素晴らしい演奏に、再び拍手を」
「これにて、本日のストリート演奏、及びレセプションを全て終了いたします」
光は、ルシェールに身体を支えられ、恥ずかしそうに大拍手を受けている。




