光のゴールドベルク変奏曲演奏と、それぞれ
その望月梨花が光の前に到着する前に、大騒ぎが始まってしまった。
レセプションホールの壁際に座り込んでしまった光の前に、特に音大女子が大挙して押しかけている。
「光君、可愛い!」
「ねえ、私とデュオしようよ!」
「だめ、私にしなさい!」
「ステージにピアノあるでしょ?弾いてよ」
しかし、疲れてるし、光はそもそもが引っ込み思案の上に、お姉さまたちに押され、うろたえるばかり。
「はい・・・あの・・・うん・・・」
全く返事にも何もなっていない。
すると光の危険を察したルシェールがアドバイス。
「ねえ、光君、人の気持を鎮静化する曲はどう?」
光は、ルシェールのアドバイスには実に素直。
そのまま、ピョコンと立ち上がり、ステージのピアノに向かって歩き出す。
そして、ルシェールは、やはり考えが深い。
万が一にも、光が音大のお姉さまたちに組みつかれないように、ごく自然に光の隣を歩き、「マネージャーのルシェールと申します」と、にっこり薔薇のような美しい笑顔を見せる。
その時点で、音大のお姉さまたちは完敗。
「美少女過ぎ・・・」
「スタイル良すぎ・・・」
「光君とお似合い過ぎ・・・」
それもあって、光は実にスムーズにピアノの前に到着した。
その光にレセプションホールにいる全ての人が注目する中、光は少し考えた。
「鎮静作用のある曲となると・・・」
「うん、あれかな・・・さすがルシェール」
そして光が弾きだしたのは、バッハの「ゴールドベルク変奏曲」。
その最初のフレーズから、レセプションホールは、魅惑の空間に変化した。
「ふぅ・・・きれい・・・落ち着く」
「楽譜に忠実ながら、歌うような夢見るような美しさ」
「メロディーの歌わせ方、リズムのほんのちょっとしたタメが絶妙」
「早いフレーズでは、キビキビと、でも情感はたっぷり」
変奏曲の第2曲目の途中からは、レセプションホールに集まった人は、ただ聴くばかりで、声が出せないほどになった。
光のゴールドベルク変奏曲のとりことなってしまったようだ。
それを見守る巫女たちは様々思う。
春奈
「さすがルシェールだなあ、あんなアドバイス私には出来ない、ますます光君が遠くなったな、寂しいな」
ソフィーは春奈の肩をトンと叩く。
「あるべき姿になったの、光君もルシェールの前だと、顔を作らないもの」
「残念ながら、私と春奈さんの前では、硬かったもの」
由香里は演奏には聞きほれながら、音大のお姉さんたちに不安。
「今はルシェールがいるから抑えられたけれど、・・光君は繊細だから、女性関係で苦しませたくない」
その由香里に由紀が声をかけた。
「私も、キャサリンもサラも春麗も入りますから、全員で警護しましょう」
由香里も、それで少し落ち着いた。
由紀、キャサリン、サラ、春麗と目を見合わせ、互いに頷いている。
華奈と柏木綾子は、それが将来のことになるので、不安顔を隠せない。
そんな状態で、光の演奏は続いている。




