圧倒的な第九のフィナーレ 光は次に皇帝を弾く
第九のフィナーレに向けて、光の指揮棒は、ますます力をみなぎらせる。
囲んだ聴衆は、陶然となり、全く身動きが出来ない。
中には手を組み、光とオーケストラに拝む人まで出てきた。
クリスチャンだろうか、十字を切り、天に祈る人もいる。
「まさに、魂を揺り動かし、魂を浄化する音楽の神ミューズの顕現」
望月梨花は自分を恥じた。
「これを商売にしようとした心が情けない」
「そんな金銭とか儲けの手段にはしたくない」
「ただ、聴いている人に、音楽の喜びを感じてもらいたい、その一心で光君は指揮している」
第九は、とうとう大合唱が加わったフィナーレに入った。
光の指揮は、パワフルそのもの。
天にも届けと、オーケストラも合唱も、思いっきりのパワーで光の指揮に応える。
聴衆の中には、拳を握りしめて、クライマックスに備える人。
身体を揺らして、音楽に身を委ねる人。
我慢しきれなくて、胸を張って合唱に加わる人。
様々いるけれど、全ての聴衆の目が、聴き始めた時とは、全く違う。
とにかく全員の目が、光り輝き、光の指揮棒を追い、第九の壮大な世界に入り込む。
光の指揮棒が、ついに最後のフィナーレに向けて躍動感と力感を増す。
その時点で演奏家も聴衆も区別はなかった。
この東京駅丸の内南口広場にいる人全員が、光の指揮棒に心と身体を委ねるだけになる。
そして、この世のものとは思えないほどの圧倒的な躍動感と力感の中、とうとう第九は、フィナーレ、光は指揮棒を高くつき上げ、終わった。
「やったーーー!」
「おーーーー!」
「最高!」
聴衆のあちこちから、地雷のような大拍手と、大歓声。
中には聴衆たちも感激して、抱き合う人も多い。
顔を抑えて泣いている人も多い。
光が聴衆に向き直り、お辞儀をすると、また地雷のような大拍手。
「ありがとーーー!」
「すごかったーーー!」
「感激したよ!」
アンコールの声も多い。
「もっと聴きたい!」
「お願いしまーす!」
とにかくアンコールが止まない。
光は、望月梨花に目で合図。
広告会社の社員だろうか、ピアノを光の前に運び込む。
ヴァイオリンを弾いていた大指揮者小沢氏が、光の横に立った。
聴衆の中には、やはり世界の大指揮者小沢氏の顔を知る人が多い。
「え・・・小沢さん?」
「あの可愛い男の子の指揮でヴァイオリンを弾いていたの?」
「すると、あの子は何?」
いろんなささやき声が聞こえる中、小沢氏が口を開いた。
「小沢です、次は同じくベートーヴェンピアノ協奏曲皇帝の第三楽章になります」
「ピアニストは、我が愛弟子にして、第九の指揮者、光君」
光は、そのままピアノに向かい、小沢氏は指揮棒を構えている。




