光vs暴言少女(1)
光は冷静な表情に何の変化もなく、惑星と威風堂々のスコアを持って、楽譜売り場のレジに進む。
その光の周囲を由紀、キャサリン、サラ、春麗がガッチリと固める。
ただ、周囲の来店客は、その光たちが不安で、ヒソヒソ声が聞こえてくる。
「ねえ、あの男の子と、女の子たち、大騒ぎしている赤いドレスの女の子を前を通るけどさ」
「うん、通らないとレジに行けないよね」
「絶対、嫌なこと言われるって」
「平民とか貧民とか?」
「うん、ロクでもないこと言われそう」
「あの女の子がいなくなるまで待てばいいのに」
「私、近寄りたくないもの」
・・・・・
いろいろと聞こえてくるけれど、その赤いドレスの女の子が発する「嫌なオーラ」は、周囲の来店客が近づく、前を通るのもはばかられるほどの結果をもたらしているようだ。
ただ、光たちは、全く歩みを止めない。
そして、赤いドレスの女の子の前を通り過ぎようとする。
と、その時だった。
いきなり、赤いドレスの女の子が大きな声を出しはじめた。
「ちょっと!あなたたち!」
「何様のつもり?」
「この私の前を通るのに、お辞儀ひとつできないの?」
「もーーー!だから平民とか貧民は嫌いなの!」
「最低の礼儀もわきまえず、音楽?」
「いい?音楽というものはね、高貴なものなの!」
「だから、その高貴な音楽を演奏したり、聴いたりすることができるのは、高貴なお家に生まれた高貴な血筋の者だけなの」
「平民とか貧民は、音楽を演奏したり聴いたりしてはいけないの!」
「ほら!」
「すぐに、その楽譜を元あった場所に戻して来なさい!」
「これは私の命令です!」
「それが済んだら、私のところに戻って」
「深く深く謝罪なさい」
「それで許すとは言いませんけれどね」
「最低でも、それくらいはしなさい!」
・・・・・・延々と続くけれど、光たちは、何も聞いていない。
そのまま、スンナリとレジに進み、「惑星」と「威風堂々」のスコアを店員に差し出し、支払いを済ませてしまう。
すると、その様子を見た赤いドレスの女の子が、ますます激高。
「ちょっと!あなたたち!何様のつもり?」
「それから、そこの店員!なんで平民、貧民に高貴な音楽のスコアを売っているの!」
その激高に、女性店員はまた、うろたえるけれど、光たちは、全く動じない。
そして、光は、その赤いドレスの女の子の前に立った。
赤いドレスの女の子が、いきなり光に向かって、右手を振り上げた。
「何よ!」
ほぼ張り手のような感じ、その右手が光の左頬を襲おうとする。
その瞬間だった。
光の瞳が、まばやく輝いた。
と、同時に、右手を振り上げた赤いドレスの女の子の腰は崩れ、床にペタンと座り込んでしまっている。