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ニートでも、作戦くらい立てたい

「それで? 実際のところどうするつもりなの?」

「ん? そーだな。勝つもダメ、負けるもダメじゃ、打つ手が無いよな」


 マリーの親父さんとの話を終えて、とりあえず正式な書類記入は、一週間後の結果を見てからという話になって、今は俺の家へと帰ってきていた。俺の家に、マリーがいるのは、マリーもこの後から暇だという理由で、俺の部屋の掃除をする体でいるわけだが、一向に目的を果たそうとはしていない。


 目下、俺達の話題に上がっているのは、一週間後に控えたグレイスワース=ベルモットとの試合である。勝利条件が相手を戦闘不能にするという簡単かつわかりやすいルールのため、勝敗が難しくなることはない。しかし、問題なのは、俺が勝とうが負けようが、その勝敗に関わらずリスクを負っているという点にある。

 まず第一に、俺が勝てば、マリーの親父が理事長を辞めることはないが、俺がお姫様と婚約することになり、そうなると身分証明書を持っていない俺は即逮捕という素敵に不敵な状況になる。逆に、俺が負けると、マリーの親父が無職になり、マリーに俺が八つ裂きになるという最悪かつ最低な結果になる。

 どう転んでも命がなさそうなのは分かりきっていた。だから、マリーは俺にそんなことを聞いてきたのかもしれない。


「打つ手が無いってね……。どっちでもいいのなら、勝ってしまえばいいじゃない」

「お前な……。簡単に言うけど、俺がお姫様に勝てる確証は無いんだぞ? それに、勝っちまったら俺が務所行きだろ」

「でも、もしも負けたら私、きっとあなたのことぶち殺すわよ?」


 いや、女性がぶち殺すとか言うなよ。


「それは勘弁被りたいな。まだ死にたくないし」

「なら、勝ちなさい。務所くらいすぐに脱走できるでしょう?」

「お前は、俺に一体いくつの罪を上乗せさせたいんだ?」


 ホントこの女はいい性格してるよ。


 ともあれ、このままでは埒が明かないのは目に見えたものだ。勝つもダメ、負けるのもダメ。突破口は一つだけ見つけているが、それをおこなって、本当にうまくいくのかが疑問だ。何より、まだ解消できない解決法をマリーに教えれば、絶対にそれをやれと脅しを加えて言うに違いないから、怖くて言うことすら出来ない。


 はてさて、どうしたものか……。


「というか、その顔」

「ん?」

「あなたのその顔。良からぬことを考えてる顔よ。大抵、そういうときは何かしらの悪巧みが思いついてるってこと、わかってる?」

「よくもまあ、俺のことをそこまで知ってるな。もしかして、コアなファンか何かですか?」

「ふざけてると、殺すわよ? もう十年も一緒に居たんだから、そういうことくらいわかるわよ」

「さいですか……」


 まあ、実際は六年しか一緒に居ないけどな。


 マリーは本当に俺のことを見ている。俺が悪いことをすればちゃんと叱るし、良いことをすればマリーなりの褒め方で褒めてくれたりもする。何より、隠し事をしようにも観察されただけでバレてしまうほどに、マリーは俺のことをよく見ている。逆に俺はというと、そういうのがからっきしダメで、今までも、そしてこれからも理解することは出来ないだろうと確信している。


 そんなマリーは、ソファに座って俺が淹れたアイスココアを飲みながら、じっと俺の顔を観察する。隠し事をしていることはバレても、その内容まではバレてはいないようだ。でも、勘のいいマリーのことだから、もう少し観察されればある程度は予想できてしまうのだろう。

 隠すことを諦めた俺は、マリーに正直なところを話し始めた。


「いや、一つだけ試合を穏便に終わらせる方法を思いついたんだ」

「へぇ~。でも、それがうまくいくか自信がないのね?」

「……いや、まあそうなんだけどさ。どうしてわかったし……」

「長い付き合いだからね。別に驚くことでもないでしょう? それで? 成功率は今のところでどれくらいなのかしら?」

「正直なところ、三割も行かないと思う」


 いつもであれば、この後にマリーは「やれ」「やらないと、その頭に今から特大の風穴が開くぞ」などの暴言を吐くのだ。

 俺がマリーの返事を萎縮しながら待っていると、


「まあ、そこはあなたがやれると思ったらやってみたら良いんじゃない?」

「……?」

「何よ?」

「いや、いつもなら罵詈雑言の後に強制的にやらせるのに、今日はヤケに大人しいなと思ってさ」

「あなたね……。私を一体何だと思ってるわけ?」

「え、……鬼?」

「殺されたいの?」

「いや! 間違えた! えと……鬼畜?」

「もっとひどいわよ!」


 少し頬を紅潮させて、ポカポカと力の入っていない拳で俺の頭を叩くマリー。なんだか、いつものマリーのように思えない。もしかして風邪でも引いているのではないかと、心配になってくる。だが、マリーは至って正常だ言わんばかりに、少し息を吐いて呆れたように続けた。


「別に、今回ばかりはお父さんにもリスクが有ることだし、勝率は高いほうがいいわよ。そもそも、あなたが彼女――ベルに勝つのは簡単ではないけれど、難しくもないはずよ。でも、この試合はただ勝つだけじゃダメなのよ。それじゃあ、あなたにリスクが回るだけだしね」


 なんだか、マリーがいつも以上に俺のことを気にしているような気がする。確かに、俺が思いついた作戦を実行して、もしも失敗したら俺は敗北する。そうなれば、マリーにも少なからず不利益が生じるのだから、話はわかる。しかし、ならば、率先して勝たせれば良いのだ。なのに、俺のことを考えてただ勝つこともダメだと言った。


 一体、マリーのやつどうしちまったんだ? なんか、妙に優しくて逆に怖いんだけど……。


 いつもと違うマリーの言動に戸惑っていると、渡したココアを飲み終わったようで、マリーは空のコップを机に置くと、俺から視線を外して、ボソッと何かを言った。


「……それに、シドーが勝つと私が困るのよ」

「ん? 今なんて?」

「なんでもないわ。それより、お腹空かない?」

「え? いや別に……」

「空いてるわよね? 空いてるんでしょう? ほら、さっさと夕ご飯を作りなさいな」


 どうやら、うちの女王様はお腹が空いてしまったようで、一週間後のことを後回しにするそうな。

 まあ、俺としても、これ以上、考えていてもいい案は浮かびそうもないし、ちょうどいいっちゃ、ちょうどよかったんだけどな。


 半分脅しが入ってはいるが、いつものことなのでそれはそれとして、料理をするために立ち上がった俺に、マリーが手を掴んで止めてきた。


「今度はなんですかい?」

「苦かったり、辛かったりしたら許さないから」


 マリーは苦いものと辛いものが大の苦手で、口にするだけで幼児期に戻ったのではないかと、錯覚するほど泣いてしまう。ついこないだ、俺の趣味の邪魔をしたお返しに激辛のパスタを食べさせたところ、久々にその姿を見られたマリーは以降、俺に毎回のように口止めしてきていた。


 しかも、半分泣きそうな顔で、だ。


「へいへい。もうしませんよ、お姫様」

「おひ……っ。こ、殺すわよ!?」

「え、なんで!?」


 別に貶したわけじゃないのに、どうしてそこで《機獣》を装備するの!?


 こうして、いつでも波乱万丈な俺は、幼馴染に夕食をご馳走するだけで命が危ないわけなのである。

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