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ニートでも、選択くらいしたい

「で。誰が私の娘のフィアンセなのかな?」


 部屋に入ってきたベルモットの父親、つまるところ、この聖都の国王に当たる人物は、静かな部屋の中で改まってそう言った。

 ベルモットはベッドの上で終始、頭を抱えるような姿で、後悔を拭うかのように体をうねらせ、マリーに至ってはすでに部屋から退室していた。問題の俺はというと、絶望の真っ只中にいるという顔で。


 そりゃあそうだろう。目の前に、一歩間違えれば、俺が犯罪者として世間に口外されるかもしれない人物と一緒にいるのだから、絶望の一つだってしてみせる。しかし、いつまでもそうしてはいられない。とかく、ここはどうにか丸く収めないといけないと考えて、俺は行動を開始した。


「えっと、フィアンセかどうかはさておくとして、今日、彼女と勝負をしたのは自分です……」


 自ら名乗り出て、これ以上、国王様の機嫌を損ねないように最低限の敬語で対応する。その間、ずっと俺の心臓は心拍を早めていて、もしかしたら心不全で死ぬんじゃないかと思うくらいには心拍が激しくなっていた。


 ムクッと、国王様が俺の方を見て、徐々に俺の元へと近づいてくる。そして、目と鼻の先に国王様の顔があるという状況で、俺は冷や汗一つかかせずに、努めて笑顔で、国王様の行動を見続けていた。

 やがて、国王様は俺から数歩離れると、顎髭に手をやって、少し息を吐いた。


「ふむ……。いい目だ。少し歳が離れているようにも思えるが、離れすぎているわけでもない。何より、我が娘を打ち負かしたという実績がある。こればかりは誰一人非を責めることはしまい。して、君の名前は?」

「な、ナミカゼ=シドー……です」

「ほう……?」


 はて、何か間違えてしまったか。国王様が訝しむように、俺を見る目が変わる。流石のポーカーフェイスも崩れかけ、冷や汗が一筋流れ出た。付き人を下げさせ、国王様と俺は対面する形で、ベルモットは俺と国王様の両者を見渡せるような配置で、再び話が始まった。

 と言っても、何一つとして情報、および理解がなかった俺たちは国王様の第一声を待つ形ではあったが。


「さて、本題に入ろう。その前に、少しばかり茶番に付き合わせてしまったのはすまなかった。警備に君達が、私の用事であることを信じさせるために必要なことであったのだ」

「……はぁ」

「そう硬くなるな、ナミカゼ=シドー。君のことは紙面上ではよく知っているつもりだ。無論、古くからの親友であるタイタスがすべてのことを話していればの話にはなるが」


 タイタスとは、マリーの親父。つまり、ブリュンヒルド家の当主の名前である。


「故に、君にこの国の市民権がないことも、君の強さの秘訣も理解しているつもりだ」


 俺に市民権がないという点において、ベルモットは驚きの顔をこちらに見せたが、俺からすれば、俺の強さの秘訣とやらを知っているらしい国王様に驚きを隠せない。いや、マリーの親父の顔が広いことは知っていたけど、まさか国王様と親友だったとは。だとしても、俺のことを安易に話されては困るんだけどな。


 しかし、知られているとあっては、何かしらの罰が下るのかと思っていると、国王様は粗末な病室の椅子に座ると話の続きをし始める。


「だが、そのことについては正直どうでもいいと私は思っている。なんなら、今回の試合で我が娘の婚約云々というのも結局のところどうでも良いと考えていた。しかし、世間はそうではない。恨めしいことにな」


 一息。


「上議員では君の処遇について大分白熱を極めている。暗殺……なんて意見が出るほどにはな。そして、我が娘の軽率な行動は、控えめに言っても非難せざるを得ないものであると、考えられているようでな。正直、息苦しくて会議から出てきて、今ここにいるというのもある」


 一体、国王様は何が言いたいのだろう。いや、予想はできる。できるが、それは果たして俺を苦しめるものになり得るものでしかなくて。どうか、そうでないものであってくれと、懇願をしたくなるものでしかなくて。それでも、結果が変わらないのは、それまでの行動が変えられないからだと、世界は無慈悲に伝えてくるようで。

 俺とベルモットは、国王様からたっだ一つの結論を投げられた。


「事態はもう、君が我が娘と結婚するか、二人が始末されるかの二択にまで進んでしまっているのだ」


 まさか、俺の就職でここまで事態が悪化するとは……。

 静かになっていた部屋が、見る見るうちに寒さの目立つ部屋へと様変わりしてしまっていた。


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