まったく、これだから。
魔女は危険な生き物。
魔女は長く生きるから、人間ではない。化け物と同類。
魔女は、人間を喰らう。特に子供の肉が好き。
魔女は、子供を生け贄にする。
どれもこれも、まことしやかに囁かれる噂話。
「ちっ、またかい」
煙草を噛み潰して、“魔女”は不機嫌そうに唸った。
森の奥、魔女の家の門扉は人を拒むための門。
だけれど、森の外で飢饉や疫病が流行ると魔女に供物として子供を置いていく村人が後を絶たない。
それこそ、何十年も、何百年も。魔女からすれば、呆れるほどに無知が起こす勝手な行動。
目の前には子供。
それも、彼らが逃げられないようにとボロボロに傷つけられたその姿はどれだけ容赦がなかったのかとむしろ魔女を残虐だのなんだの罵れるのかと問いたいほどだ。
双子なのか、兄弟なのか。どちらにせよ、互いを守るかのように寄り添う姿はもう虫の息。
魔女はため息を深く吐き出して、纏っていた黒いショールで子供たちを包んで抱き上げた。
「まったく、これだから人間は嫌いだよ」
それから数年。
手足と声を失った少年たちは、魔女から義足を貰って旅立って行った。
なにやら嫌そうな顔をしていたけれども、魔女は素知らぬふりで見送るだけだ。
「……人間は、人間らしく生きりゃぁいいんだよ」
魔女の庭にはいくつもの石が立ち並ぶ。
その周りを不釣り合いなほどに鮮やかな花が彩る。
それは、生け贄にと捧げられた子供たちが、巣立てなかった事への魔女なりの優しさだった。
魔女の所で新しい人生を得るのか、新たな輪廻へと向かうのか、それこそ神のみぞ知ることだけれど。
「まったく、これだから人間は嫌いだよ」
勝手に押し付けて、勝手に人の心に棲みついて、勝手に人の心を引きちぎるんだ。
去って行く少年たちが、何度も振り返る姿が見えなくなるまで魔女はただ無表情に立ち尽くす。
彼らが戻ってくることは、ないだろう。こんな寂びれた場所よりも、もっと広い世界がお似合いだ。
だけど、魔女はひとりぼっち。
死んでしまった子供たちを置いてはいけないから。彼らの髪を切り取って、彼らの代わりに愛しむ人形は作ったけれど。
だけれど魔女はひとりぼっち。
旅立つ子供を見送るだけ。
「まったく、これだから人間は嫌いなんだ」
立ち止まった少年たちが走って戻ってくる。
抱き着いて、大好きだと言ってくる。
魔女は少しだけ躊躇ってから彼らを抱きしめた。
「これだから、人間は、嫌いなんだ……どうせアタシを置いて先に逝っちまうくせに。まったく、これだから、人間は……どうしてこうも、愛しいんだろう」
森の奥に棲む魔女がいた。
魔女は怒りっぽかった。
魔女は長生きだから、物知りだった。
魔女は、子供が好きだった。だから心が痛かった。
魔女は、生け贄の子供を見捨てられなかった。
そんな優しい魔女の物語。