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131 お茶会

 小さな博多人形が足元に転がった。豪華な着物を着て薄く寂しげな笑顔を浮かべた人形の姿は、斎酒が普通の姫君として暮らしていたとしたらあるいはこのような暮らしをしていたと窺わせるようなものだった。

(ふむ、ご苦労だったな。おかげであいつもかなり成長できたよ)


~~~


「ネコ、お客様だ。お茶の用意を」

「マスタ、私はあなたの助手であって召使いではございませんよ!」

(え? なぜ、今ここにあの方が?)


「すぐにご用意いたします」


「これはこれは、キリュウ・グツチカ・シトゥール女王陛下、月の女王であるあなたが自ら御出でとは驚きましたよ」

「ふふ、事前に通告もせず訪れた無礼はお許しあれ。思い立ったらどうしても早くお会いしたくて、アラクを撒くのにも苦労致したわ」


「おおそうだ、土産に月に残っていた最古のお茶をお持ちしたので一緒に香りを楽しもうではないか」

「それは、興味深いですな。ネコ、お茶にはこれを使ってくれ」


『ソローンの造り手』は女王から瀟洒な包装が施された小袋を恭しく受け取ると台所に控えていたネコのところに黒魔導で転移させた。


~~~


「これは、なんとも不思議な香りですね。自分で淹れたとは思えぬほどに美味で香しいですわ」

 お茶を運んで来たついでに(実は警護のため)お茶会に参加したネコは、これだけでも価値ある出来事だと思ったがその実態を聞くと驚愕した。


「ええ~! 九億年前の全球凍結の時に絶滅したお茶の木を採取して月で連綿と栽培を続けていたとか、もう奇跡としか言えないですよ!」


「ふむ、石頭で几帳面な性格のアラクだから確保できたと言えるな。この一件は褒めてやっても良いが ・・・・・・」

 キリュウは微かに微笑むと、銃を抜いて『ソローンの造り手』の心臓を撃ち抜いた。


『ソローンの造り手』は、胸から大量に血を流して、ソファから頽れた。手から滑り落ちたカップが小さな音を立てて割れた。


「え?マスタ! 何をする、月の女王。気でも狂ったか?」


 溜息を吐くキリュウが首を左右に振ると、黒の魔導師は何事も無くお茶のお替りを魔導で再生させたカップに注ぐとゆっくりと味わいながら飲んだ。


「やはり、私の力ではそなたを殺すことは叶わぬか?」


「キリュウ女王陛下、やはり気付かれておりましたか。一時的な混乱は生じるとは思いますが、竜の命はこの私が保障しましょう。

 今は、それだけでご承知おき頂きたい」


「マスタ、月の女王をお許しになるのですか?」

「ふふ、女王とて女だということだ。ネコ、お前がここまで慌てるとは珍しいな。あはは、これはいつになく愉快だ」


「マスタ、こんな危険な火遊びばかりしていたら何時か ・・・・・・

 本当に殺されてしまいますよ、私は ・・・・・・」


 いつもの白衣ではなく、メイド服に眼鏡を掛けた人化したネコが肩を震わせて最後の言葉を飲み込んだ。

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