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125 失意

「影、ご苦労でした」

 開けられたドアから斎酒ゆきが部屋に入って来た。


『・・・・・・ 今まで我の相手をしていたのが斎酒の影だと言うのか。

 これほどの力を持つ存在が、なぜ急に現れた?

 それに、この匂いはマスターの・・・・・・』


「そなたも疲れたであろう、一度休憩を入れてはどうじゃ?」


(斎酒がいたのがマスターの部屋ならばセキュリティの関係上、こやつの気配が探れなかったとしてもおかしくはないが・・・・・・)


『今まで、マスターの部屋で何をしていた?』

「ふふ、これは異なことを。夜更けに男と女がすることなど一つしかあるまいに。 魔導にはそこそこ通じておるようだが、色恋に関してはまだ子供か?」


『何を、馬鹿にするなぁ!』


 怒りに任せて急激に膨れ上がった魔導の力で目の前の憎き女を叩き潰し、踏み躙り引き裂こうと闇の稲妻が斎酒ゆきに達しようとしたその瞬間、絶対に聞かねばならぬ声が聞こえた。


(マスターが私を呼んでいる、行かなくては ・・・・・・)


『ええい、勝負は預けたぞ斎酒!』


 逸る心のままに、超光速で『ソローンの造り手』の居室に移動したソローンはなぜかあのまま戦えば負けていたと確信しており、ほんの少しだけほっとしている自分が嫌になっていた。


「ソローン、勉強になったかい?」


 静かな声でマスターが問う。


『いえ、負けました。いいえ、それ以前の問題です。本人でないことに気付きもせず斎酒の影にすら勝てませんでしたので ・・・・・・

 お許しください、マスターの栄光に泥を塗るような真似をして』


「ふっ、そのようなことは気にすることではないよ。

 それよりも、問題なのは ・・・・・・

 なぜ、負けたかだな」


『それが不思議でした。私の下僕どもをいとも容易くあしらう斎酒の影の振る舞い。まるで、七ニ柱の魔人の能力を全て熟知しているかのような ・・・・・・』


「ふーん、それでお前はどう相手の裏を掻いてやろうとしたのだ?」

『いえ、私は正々堂々と正面から力で押し潰そうとしました』


『ソローンの造り手』は、後ろを向くと目元を緩めながら醒めた声で指摘していった。


「ソローン、いけないなあ。正々堂々に何の意味があるんだい?

 闘えば必ず勝つ、これが魔導の第一義だよ。

 敗者には何も残らない、死した者は勝者に全てを奪われその死骸までも辱められる。

 少しは兆利人、竜を見習うべきだね」


『えっ、お客様を ・・・・・・』

 驚いたようにソローンは己が主の後ろ姿を見つめる。


「そう、彼は商売とは詐欺スキャムだと看破した。大して有るとも思えないわずかな魔導の力で数々の詐術を産み出し、巨万の富を得、今ではこの超巨大宇宙船の持ち主でもある。

 彼の生き方にこそ学ぶべき物があるんだよ。お前は彼を決して認めなかったがね」


『そんな、お客様のような卑怯なことなどできません』


「ふっ、卑怯だろうが高潔な闘いだろうが。その意義を後世に伝えることが出来るのは生き残った勝者のみ。敗者には理想を語る術すらないんだよ、ソローン」


『でも ・・・・・・』

「そうだな、長い間お前の調整をしてやれなかったな。

 待っていなさい。よし。

 ソローン少しの間、保育器インキュベーターで休んでいなさい。久しぶりに私が完璧に調整してやろう」


 ソローンの目の前には、懐かしい保育器が蓋を開いて待っていた。 

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