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建国記念式典と思わぬ拾い物

 エデリシアで行われた4ヶ国会談から二週間後の今日、俺の国の王都だった場所で統合王国ヴィクトリアの建国式典が行われた。俺は三人と共に王宮の玉座の間で、貴族たちに対し建国の演説をしていた。


「今日この日、統合王国ヴィクトリアの建国をこの場で宣言できることを、私はとてもうれしく思います」


俺は静かな口調で話し始めた。


「4ヶ国の統合という大きな事業を達成できたことにより、私たちは広大な領地と資源、そして多くの民を抱える巨大な国を作りました。しかし、私たちはスタート地点に立ったにすぎません。広大な領地を手にしても、開拓し使える土地にしなければ意味はありません。資源があっても、活用できなければ意味はありません。民がいても養えるような国を作らなければ民は死に絶えるでしょう。すべてはここからなのです。この国を豊かし、この先十年、百年、千年先まで民たちが笑って暮らせる時代を築くか、他国におびえ荒廃した土地で下を向き続ける時代にするか、すべて私たちにかかっています。私たちの手にこの国の未来がかかっています」


俺はそこで一度言葉を切り、全員を見渡した。そして最後の言葉を紡いだ。


「みなさん、ここに集まった国の未来を担うみなさん。私とともに、私たちとともに、この国の未来を素晴らしいものにしましょう!」


 演説が終わると玉座の間は溢れかえるような拍手に包まれた。そんな中俺は、こんな役を押し付けた三人を静かに睨んだ。三人はこちらの視線に気付くと申し訳なさそうに目をそらした。三人は昨夜、俺の部屋に来ると今日の演説の台本を俺に渡してきたのだ。俺は拒んだが、冴えない男より、美少女の方が反響はいいだろと言われ、渋々やる事にしたのだ。

 演説後は俺を含めた各王の担当分野が説明され、そこで式典は終わった。あとは夜のパーティーを残すだけとなった。俺は部屋へ戻ると式典用の礼服を脱ぎ、侍女が用意したドレスを着た。未だに着馴れないが、少女の姿をしている今は男用の服を着ることは出来なかった。建国記念式典が王宮で行われている現在、街の方でもこれを祝うお祭りが始まっていた。俺はパーティーまでの間、街を見に行くことにした。


「アーニャ、行きますよ」


「行くって、どこへですか?」


「もちろん街へ決まっているでしょう」


 俺はフードつきのローブを着て、それをアーニャにも持たせると、無理やり街へと連れ出した。街は賑やかな喧騒に包まれていた。大道理には露店が立ち並び、子供たちが走り回っている。店からは客引きの声が聞こえ、お客との間で値引きの交渉をしていた。


「この風景をさらに素晴らしいものにしたいですね」


「あなた次第ですよ。陛下」


「そうですね、頑張らなくてはいけませんね」


 俺とアーニャは、そのようなことを話しながら通りを歩いていた。どこか明確な目的地もなく、気の向くまま歩くことはとても楽しく、転移からずっと気が抜けなかった俺にとって良い気分転換となった。そのうち人ごみも薄くなり、やがて誰もいない路地に行きついてしまった。


「なんだか汚いところですね」


「ここはまっとうな者が来るところではありませんよ」


「そうなのですか?そういうのはあまりよくわからないのですが」


「町の掃き溜めのようなところです。ここはまだ入り口付近でしょうから大丈夫ですが、奥に行けばいくほど、汚く危険なところになりますよ」


「なるほど、スラムみたいなところですか」


「その通りです。さあ、行きましょう。そろそろ王宮へ帰らないとパーティーに間に合いませんよ」


アーニャはそういって踵を返し帰ろうとしていた。俺は後に続こうとしたが、路地の隅に倒れている人を見つけ立ち止まってしまった。


「何をしているんですか?帰りますよ」


アーニャがせかしてくるが、俺は倒れている人のほうへ歩いて行った。倒れている人の前につくとか細い声が聞こえた。


「助けて」


女性の声だった。その声は倒れた人物からうわごとのように漏れていた。


「アーニャ、女性が倒れてます!」


 俺はいまだにこちらへ来ないアーニャへ叫んだ。アーニャもそれを聞くと、俺のそばへ立ち目の前の女性を確認した。


「陛下、このようなことはよくあることなのです。なのでいちいち気にしていてはな・・・・」


アーニャは女性の方を見ながら俺に話していたが、途中で言葉を切りつぶやいた。


「エルフ」


「え!?」


 俺は驚いて彼女の顔を見た。確かに彼女の耳は細長く、エルフとみて間違いなかった。女性が倒れている。その事実に気が動転した俺は、耳などの細部まで確認する余裕はなく、気づくのが遅れたのだ。


「エルフがこんなところに倒れているなんて。何か事情があるのでしょうか?」


「アーニャ、エルフが倒れていることは珍しいことなのですか?」


「倒れているのが珍しいと言うより、人間の町にいることが珍しいのです。彼女らは人間とめったにかかわりません」


「とりあえず王宮に運びましょう。手伝ってください」


 その後、俺とアーニャは倒れていたエルフの娘を王宮へと運び、体を清潔にし、客室のベットへ寝かせた。

そして俺は、急いで準備をし、夜のパーティへ出席した。パーティーはつつがなく終わった。パーティーでの貴族たちに対する対応や、今後についての軽い話、慣れないそれらに疲れた俺は、部屋に戻ると、ベットに倒れるようにして眠った。

 次の日、侍女に起こされ朝食をとった俺は執務室に行き、担当の軍務と外務の仕事を始めた。


「まずは、周辺国との関係を改善しなくてはなりません。周辺国に書状を送り、大使館の開設から始めましょう」


「承知いたしました。それではすぐに取り掛からせます。書状の作成もこちらでしておきます」


外務の補佐を頼んだアルマンが迅速に動く。


「陛下、国軍の再編成についてなのですが・・・」


「兵科ごとの数を調査して提出してください。再編成はその後に行います」


「了解しました。近日中に調査作成し、提出いたします」


「お願いしますね」


 俺は軍務と外務の仕事を次々と行っていた。国の全てを決めていた時より幾分か楽だが、4ヶ国分の業務なので量は多い。ちょうど昼時なので、俺は業務を中断し、昼食をとることにした。静かに昼食をとっているとアーニャがやってきた。なにかあったのか尋ねると、彼女は俺の耳に顔をよせ囁くように言った。


「エルフの女性が目を覚ましました」


 俺は、午後の執務が終わってから行くと伝え、急いで部屋に戻り執務に取り掛かった。そのおかげで予定より一時間早く終わることがだ来た。

 俺は、アーニャと共に、エルフの女性のところへ向かった。部屋に入ると彼女はベットから起き上がり、少しぼーっとした様子で窓の外を眺めていた。俺はアーニャに彼女の容体を聞いた。


「医者の話では疲労と空腹で体力は落ちていますが、命に係わることはないとのことです」


俺はそれを聞くとエルフの女性に話かけることにした。


「体のほうはもう大丈夫なのですか?」


彼女は、俺の方にゆっくりと顔を向けると、静かな口調で話し始めた。


「はい、だいぶ良くなりました」


「何か、体に違和感はありませんか?」


「目が少しかすむようです。あなたが二人いるように見えます」


俺は彼女の言葉に微笑むと、間違いを正すために言った。


「それは異常ではありませんよ。しっかりと二人いますから」


それを聞いた彼女は、目を何度かこすり、それから二人いることを認識した。それから、彼女は確認するように言った。


「貴方が助けてくれたんですよね?」


「ええ、路地の隅でうずくまっていたところを見つけたのでここに運びました」


俺がそう答えると、彼女は頭を下げた。


「助けていただいてありがとうございました。危うく死んでしまうところでした」


「気にする必要はありませんよ。それより、エルフのあなたが何故あんなところにいたのですか?」


俺は、彼女が何故あんなところにいたのかを聞いた。彼女は悲痛な顔をした後、ポツリポツリと語りだした。


「私は、森の中にあるエルフの村で、母と一緒に暮らしていました。ある日、その村が人間たちに襲われたんです。村の人たちは抵抗したのですけど、数が違いすぎて・・・抵抗した人たちは殺され、しなかった人たちも捕まりました。そのあと、私たちは馬車に乗せられ人間の町に連れてこられたんです。私はその町で、奴隷商の人に買われ、それから、貴族の多いこの街に連れてこられたんです。エルフは、見た目が美しいものが多いので、貴族が好んで買うらしいです。私は何とか逃げる機会を伺っていました。そして、奴隷商の人が目をそらした直後逃げ出したんです。しかし、行く当てもなく、そのうち空腹で・・・」


「母親の方はどうなったのですか?一緒に捕まったのですか?」


「母は私を庇って抵抗したときに・・・」


 俺は彼女にかける言葉がなかった。肉親を失うことなど経験したことのない俺は、彼女の苦しみに共感できない。その時、アーニャが彼女を優しく抱きしめた。彼女も父親を失っていたから、その辛さが分かるのだろう。エルフの女性は驚いた顔をしたが、次第に崩れ、泣き出した。

 彼女は長い間泣いていたが、泣き疲れたのかそのまま眠ってしまった。俺はそれを確認すると、アーニャを連れて退室し、夕食の為に部屋へ向かった。俺は、部屋へ向かう途中、後ろに付き従うアーニャに振り返らず話しかけた。


「私の事、恨んでいるのでしょう」


彼女は何も言わない。


「殺したいのでしょう」


彼女は何も言わない。


「ごめんなさい」


俺はそう言うと口を閉じた。少しするとアーニャが口を開いた。


「貴方の事は当然恨んでます。殺したいくらい恨んでます。でも、貴方が私の父を殺してまで、成し遂げようとしたことの行く末を見るまでは、殺しません。だから、しっかり果たしてください。あの日に、反乱の日に約束したことを」


 彼女はそれっきり黙ってしまった。俺は彼女に何を言うでもなく歩き続けた。俺がすることは、彼女に謝ることや、弁解することではなく、約束を果たすために行動することだと思ったからだ。




 あれから数日、エルフの女性、名前をリーナというらしいが、彼女の体調は元の健康なものへと戻った。そこで俺は、リーナにこれからどうするかを聞いた。


「これからどうするのですか?ここを出ていくというなら止めはしませんが・・・」


彼女は少し迷うそぶりを見せた後、俺を伺いながら聞いてきた。


「よろしければ此処で働かせてください。私、行く当てもないし、それに奴隷商の人に見つかったらまた捕まってしまうので。」


「いいですよ。貴女をここで雇います」


俺は迷うことなく彼女を雇った。彼女は、安心した様子でお礼を言ってきた。


「明日から私の護衛兼侍女としてしっかり働いてください。詳しい事は後でアーニャに聞いてください」


「え!?護衛と侍女ですか」


リーナは驚いた様子で此方に聞いてきた。


「ええ、そうですよ。何か問題でもありましたか?」


「侍女はともかく、護衛なんてできませんよ。戦えませんし」


「何か得意な武器とかありませんか?」


俺が聞くと彼女はおずおずと答えた。


「弓が少し。でも、すごく上手って訳じゃないんです。せいぜい100m先の的に10発中7発充てられるくらいで・・・」


「いえ、十分凄いと思いますよ。その腕なら何も問題ないでしょう。それじゃあよろしくお願いしますね」


俺はそう言って部屋を出ようとしたが、リーナに呼び止められたので立ち止まり彼女の方へ振り向いた。


「何でしょうか?」


「あの、お名前を教えてください」


俺は彼女に対して名乗ってなかったことを思い出し、次からは最初に名乗ろうと思いながら名乗った。


「アナスタシア・オルド・ナイア。この国で女王をやっています。呼ぶときは、陛下でもアナスタシア様でも好きなように呼んでください」


「へ?女王様?」


 俺は驚いている彼女を残して部屋を出た。途中でリーナの絶叫が聞こえもしたが、俺は無視して執務室へと向かった。




演説前夜の一幕


 俺  「アーニャ、明日の演説の時だけ変わってくれません?」


アーニャ「いやです、絶対にお断りします」


 俺  「いいじゃないですか。ここに原稿もありますし、やりませんか?」


アーニャ「もし演説をやらないのなら、約束を違えたということで切りますよ?」


 俺  「やりますよ、やればいいんでしょ」


アーニャ「それでいいんです。期待してますよ(ニッコリ)」

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