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神がそれを望まれる

新年あけましておめでとうございます。気が付けばいつの間にか年が明けていて愕然としました。諸事情によりなかなか書けずに遅くなってしまい、待っていてくださった方々。申し訳ありませんでした。今後も、恐らく投稿はかなり遅れると思いますが、失踪はせずに続けていきますので、今年も何卒よろしくお願いいたします。

ヴィクトリア歴7年3月20日 カステル王国セルブラント王国国境 エメジエル市郊外


「準備は順調なようですね」


 普段は広い草原が広がっているだろうエメジエル市の城壁の外では、多くのテントと天幕が立ち並んでいた。城壁から見下ろす草原は人に埋め尽くされており、眼下では統率された人の群れが蠢いていた。

 神の名のもとにセルブラント王国を懲罰する。戴冠式後に行われた宣言は同盟国でも賛同され、国王を追い出した隣国を脅威に思っていたリトシア王国、ダリア王国の両国においても支持された。各国は兵を抽出し、セルブラント王国侵攻に向けて準備を進めていた。

 ヴィクトリア王国国防軍第二軍団12,180 第七軍団12,180 第六軍団12,640 計37,000名

 カステル王国軍北方侵攻軍27,000名

 フランケン王国軍北方遠征軍19,000名

 以上、三ヶ国の軍計83,000名がセルブラント王国と領地を接するカステル王国側から各個に北上する。

 バイセルム王国軍セルブラント侵攻軍22,000名

 モンターニュ王国軍北方侵攻軍25,000名

 サントン王国軍北方征伐軍20,000名

 以上、三ヶ国軍計67,000名がセルブラント王国と領地を接するリトシア王国側から各個に西進する。なお、リトシア王国軍とダリア王国軍は防衛に専念するらしい。これらの軍勢がセルブラント王国を征伐するために各方面に集結していた。


「すごい数だな。これでも侵攻軍の一部に過ぎないというのだから恐れ入る。だが、これだけ集める意味があったのか?」


 傍を離れているアーニャの代わりにと隣に立つイライザが聞いてくる。確かに、セルブラント王国一国を潰すのにこれだけ動員する必要などない。ヴィクトリア王国は勿論、カステル王国単独でも簡単に制圧できただろう。しかし、それでは単なる征服戦争だ。今回の戦争は、王制対民衆。民衆が貴族や国王がいなくても大丈夫だと認識してしまえば、各国で王制打倒が起こりかねない。今が大丈夫でも、長い戦争で国が疲弊したり、疫病で国が弱れば、その芽はその都度芽吹くだろう。そうならないために、ここで完全に潰してしまう。それには、神の怒りという形で知らしめるのが楽だろうし、全力を出したほうが分かりやすいだろう。手を抜いた聖戦(・・)などありはしない。


「これは、神の怒りを買ったセルブラントに対する聖戦なのですよ。故に、半端な戦力では駄目なのです」


「それで、セルブラントを征伐した後はどうするのだ? そのまま、分割統治か?」


「そんな事はしませんよ。今しばらく、正当な統治者の手に委ねておきます。今はまだ(・・・・)、ですが」


「そうか。だが、ヴィクトリア王国の一部になったほうが民衆としては幸せなのではないか?」


「あら? イライザ。貴女もなかなか危険な考え方をするようになりましたね。まぁ、事実そうでしょうが、手順や段取りは必要なのですよ」


 分割統治も悪くはないが、それでは前提が崩れかねない。だから、ここは一度、元の統治者を玉座に据えるのが一番だ。所詮、民に見限られた王の治世が長く続くはずがない。しかし、民には再び王を廃する意思はない。そこで、タイミングよくヴィクトリア王国が征服し、善政を敷けばどうだろうか。そのまま征服するよりも、幾分統治は楽だろう。


「そんなものか?」


「そんなものですよ。さて。いよいよ侵攻開始ですね。セルブラントが簡単に降伏するとは思えませんが、できれば楽にいきたいですね」


「戦力は比較にならんだろう? 大した抵抗はないと思うが?」


「・・・・・だといいのですが」


 セルブラント王国の正規軍がまるまる残っているとは言え、疲弊した国では抵抗も万全ではあるまい。しかし、セルブラント王国内に湧いて出たような食料の出所は未だに掴めていない。それが、一抹の不安になっている。


「陛下」


 伝令の兵士が城壁へと上がってくる。兵士は俺の前で膝をつくと、頭を垂れて口を開く。


「もう一時間ほどで出立の準備が整います」


「分かりました。予定通りですね」


 兵士が去っていくのを見送りながら、城壁の外へと再び目を向ける。準備は着々と進んでおり、当初の予定通りに進めるだろう。


「では、イライザ。そろそろ行きましょうか」


 城壁を下りていき、馬車へと乗り込む。特別製の馬車は広さもあり、五人で座っていても快適である。周りに重騎兵の隊列を引き連れて護衛させ、馬車はゆっくりと進み始める。三万人が行軍のために縦列を形成して進んでいく様は壮観であるが、戦闘は見渡すことが出来ぬほどに長い列となる。自然と側面からの奇襲には弱くなるが、常時軽騎兵を走らせて周辺警戒をすることで備えている。


「さてと。当分は景色を楽しみながら旅行となりそうですね」


 俺は窓の外を眺めながら、馬車に揺られる日々を過ごすことになった。




――――――――――

――――――――――




ヴィクトリア歴7年4月1日

 野営と馬車の旅を繰り返しながら、セルブラント王都までの道のりに点在する街や村々を占領し、食料を供出させ、順調な進行を行っていた。補給は勿論抜かりなく万全だが、国王を追い出して喜んでいるような民衆にはお仕置きが必要だ。そういう意味を含め、途中途中の村々からは食料を強制的に供出させた。どの村も街も、3万を超える軍隊を目の前に抵抗する気力を霧散させ、簡単に降伏してくれた。今も開城した街の市長が挨拶に来ていたが、適当にあしらいながら食料を供出させる。今のところ、ヴィクトリア王国が担当しているルートでは抵抗もなく、順調に侵攻は進んでいる。だが、他のルートではそうでもないようで、幾分かの血が流れ、不信心なセルブラント王国民達が粛清という名の虐殺にあった。当初の取り決めでも別に禁止していなかったので、他国がやる分には文句を言う気もない。その後の統治に問題は出るだろうが、憎しみの目にさらされるのは自分ではないので好きにさせておく。

 俺は適当に接収した市長の屋敷へと向かい、休憩を取ることにした。いくら乗り心地をよくしていても揺れる馬車の旅は疲れるし、兵士たちにも休息は必要だろう。それに、我々的にはそこまで急ぐ必要もないので他と比べて比較的緩やかに進んでいる。

周囲を護衛に囲まれながら市長の屋敷へと着くと、勤めている侍女に案内されて部屋へと向かく。後ろからでも分かるほどに怯えていたが、別に気にするようなことでもないので無視し、部屋に着くとさっさと下がらせた。部屋の中にアーニャ達だけとなると、椅子に座ってややだらしなく目の前の机へと体をうつ伏せに投げ出す。アーニャからの視線は厳しいが、疲れた体では声を上げる気力もなく、黙って視線を浴び続ける。


「一旦、休憩ですね」


 机にだらしなく身を投げ出しながら口に出すと、アーニャも諦めて隣へと座り、リーナ達もそれぞれ好きに座る。時刻は昼を僅かに過ぎたころで、夕食や湯あみには時間もある。しばしだらけても問題はないだろう。


「ようやく、まともなベットで寝れますね」


 馬車での移動と野営は何度も経験しているが、慣れたとしても疲労が溜まらない訳でもなく、徐々に体は疲れ切っていく。一応、女王という立場なので寝台を運ばせることもできるのだが、そんなものを積むよりは食料や武器を積んだほうがいいと思いやめた。今では僅かに後悔しているが、今更体が痛いので寝台を運べとも言いづらく、何とか我慢している状態だ。


「無理せず寝台を運ばせればよいと思いますが?」


 アーニャがやや冷めた視線で正論を吐いてくる。俺は、その視線にため息を吐きながら体を起こして姿勢を正す。


「イメージというものは大切ですよ? 一人だけ豪華な寝台で寝ている上官と同じ地面で寝ている上官なら、どっちの為に戦いたいかですよ」


「なるほどな。よい女王を演じるのも大変だという事か?」


「全てが全て演技でもないですが、少しは見たいものを見せてあげないといけませんからね」


 兵士というのは、当然だが命がけの仕事だ。厳しい訓練で規律と忠誠心を植え付けているが、それでも人の本性というのは死に直面した時に顔を出す。もし、それが劣勢な戦のさなかならば尚更だ。生存本能からくる逃亡の選択。そこにいれば死ぬと分かっているのに逃げないというのはなかなかに出来ることではない。しかし、軍隊というのは、逃亡によって起こる崩壊が起きないように行動と規律を訓練によって叩き込まなければならない。だが、それだけでは足りない。最後に踏ん張らせるためには守るべきものが必要だ。そこに留まって死ねと命令されたとき、寝台で寝そべる上官と寝床を共にしてくれる上官とどっちの為に死にたいと思うかだ。俺なら後者を選ぶし、前者の為に死にたいと思う奇特な奴はそうそう居ないだろう。


「いざという時、大事になるかもしれませんしね」


「そういうものなのか」


「そういうものなんですよ」


 僅かに笑ってから、再び体を倒して机にだらける。アーニャの視線が再び冷たくなった気がするが、視線を合わせなければ効果は激減する、はずだ。


「そういえば、セルブラントは抵抗してきませんね。どうして、こんなに無抵抗なんですかね?」


「どうでしょうね。まぁ、何もないならば楽でいいではないですか。リーナ」


 ふと思ったことを口にするように呟くリーナに対して、だらけながら返事をする。


「抵抗しても無駄だというのは相手も分かっているだろう。それに、どこか一つを打ち破っても他の侵攻は止めようがないし、下手をすればさらに苛烈になるだろうから、迂闊に手を出せんのだろう」


「ですが、このまま引き下がるとも思えません」


 状況から考えられる予測を口にするイライザに対し、俺を睨んでいたアーニャが口を開く。意識が別をむいたし、幾分視線の冷たさも和らぐかと思ったが、感じる冷気はそのままで幾分がっかりしてしまう。


「苦労して追い出した国王が戻ってくるというのに、このまま指を咥えて黙ってみているでしょうか? 彼らも、今後の統治が苛烈になる事は予想しているはずです」


 本来自身を守る盾である筈の国軍から裏切られ、怒れる民衆から追われた王の心が平穏である筈もなく、自身の命を脅かされた恐怖は、今度は怒りとなって自身を追放した民衆へと降りかかるだろう。当然、予想できる未来に対して何もしないでいるという選択を取れるものだろうか。アーニャの言う通り、何か行動を起こさずには居られないというのが大多数の心理のの筈だ。

 そして、アーニャの言葉を現実にするように、扉越しの廊下の方から慌ただしい足音が近付いてくるのが聞こえる。俺は姿勢を正すと、溜息が出そうになるのを我慢して毅然とした表情を顔に張り付ける。

 直ぐに息を切らした兵士がノックとともに入ってきて、その場に跪く。


「無礼をお許しください! 火急の要件をお伝えしにまいりました!」


 突然の入室を咎めよとするリーナを手で制し、何事かを話すように促す。


「斥候からの報告です! 元セルブラント王国軍と思わしき集団がこちらに向かってきております。数は凡そですが40,000とのことです!」


「分かりました。。セレーナ。この者に何か飲むものを与えてあげてください。イライザ。馬の用意を。直ぐに将軍の元へ向かいます」


 アーニャの単なる予想が現実になったことと、せっかくの休憩が取りやめになってしまったことにやや憂鬱になりながら、俺は指示を出していく。自身の軍よりも数の多い敵との初の戦闘に、俺は僅かに不安になるが、それを顔に出さずに指示を出していった。

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