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休日と種まき

かなり遅れてしまい、申し訳ありませんでした。今月中にもう一話上げる予定です。頑張るぞい!!

ヴィクトリア歴6年 10月8日 ヴィクトリア王国 王宮


「では、どうしましょうか?」


「陛下のお好きなようになさればよろしいかと」


 やや困惑顔でアーニャさんに質問する陛下の姿は見ていて珍しく新鮮で、ともすれば笑ってしまいそうになるが、陛下の予定が休日含めすべて管理され予定が組まれ、急な休日などない事を考えれば、笑ってしまうのは失礼だと表情を引き締める。


「ん~。どうしましょうか?」


 指先を顎に当てて、小首を傾げながら真面目に考え始めてしまう陛下は、街にするか馬で遠くに行こうかとブツブツと呟きながら悩んでいた。その姿は、どこか微笑ましさすらあった。




「王都を散策されるというならば、直ぐに警備の手配をいたします。範囲を指定すれば、今からでも可能かと」


 アーニャさんが警備の手配をするか提案する。陛下は、あまり仰々しい警備を好まれず、お忍びという形で散歩に行かれることが多い。


「そうですね。では、遠出しましょうか」


「直ぐに護衛を手配いたします。イライザ。警務省に連絡を・・・・・」


「分かった。直ぐに手配しよう」


 思いついたかのような陛下の発言に、すぐさまアーニャさんとイライザが動こうとする。しかし、陛下がそれを手で制する。


「護衛は必要ありません」


「ですが、危険が伴います」


 アーニャさんの話はもっともだ。陛下は他国から狙われる身であり、護衛なしに王宮外へと出るのは危険だ。今のところ、王宮への侵入は一度もない。しかし、外となれば危険度は増す。暗殺者でなくとも、高貴な身分というだけで、狙うには十分な理由になる。


「大丈夫ですよ。どうせですから、人がいない場所へ行きましょう。・・・・・そうですね。料理長に昼のお弁当を作ってもらいましょう。それができたら、出発です」


「承知いたしました」


「では、直ぐに料理長に申し付けてまいります」


 決定事項でも言うような陛下の口調に説得は無理だと悟ったのだろう。アーニャさんは何も言わずに了承し、私は陛下が食べ終えた食器を下げて厨房へと向かおうとする。


「着替えましょうか。せっかく着せてもらいましたが、この服では外に出るのは不向きでしょう」


「お手伝いいたします」


 セレーナが付き添い、隣の部屋から陛下のリクエスト通りの物を持ってくるために扉を開ける。陛下のドレスは膨大だが、特に頻繁に着られるお気に入りの物は隣の部屋へと置かれている。


「お願いします。では、後で集合しましょう」


「「「「承知いたしました」」」」


 私とアーニャさん、イライザの三人はそれぞれ退室すると、各々の雑務を消化して再集合するべく動き出した。私は、厨房へと向かい料理長へとリクエストを出す。外で食べるというならば、簡単なものがいいだろうと思い、それを伝えると料理長はサンドイッチですかと微妙な顔で聞いてくる。外で簡単に食べられて、味も良く、陛下が好まれるというなら、サンドイッチになるだろう。そこまで思考が進んだところで、私の顔にも微妙な笑みが浮かぶが、それを消して料理長へとお弁当を任せる。そうして、自身の部屋へと戻り、外でも汚れず動きやすい服へと着替え、出かける支度と武器を整える。そして、それが終わるころには侍女長が料理長が作ったお弁当を持ってきてくれた。私達のような護衛任務を兼ねない一般の侍女達を統括している侍女長は、気立てがいいと噂に聞くが、接点があまりない私はよくわからなかった。


「ありがとうございます」


「楽しんでね?」


 とりあえず感謝の言葉をかけると、思わぬ返答が返ってきたので少し驚いてしまう。常に陛下のそばに侍らなければいけない職務上、私は他の侍女達とはやや疎遠だと自分で思っていたし、こんな言葉をかけられるとは思いもしなかった。


「はい! 陛下をしっかりお守りしつつ、楽しんできます」


「行ってらっしゃい」


 侍女長といえばアーニャさんのように厳しい方を想像していたが、この方は違って優しい方なのだろうかと思いつつ、元気に返事をして陛下の部屋へと向かう。


「・・・・・では、そのように致しましょう」


「時間はかかるでしょうが、ゆっくりやっていきましょう」


 部屋の前まで来ると、中から陛下とセレーナの話す声が聞こえてきたので、ドアをノックして中へと入室する。中へと入ると、陛下とセレーナ、アーニャさんが座って話をしていた。陛下は先ほどのドレス姿とは打って変わって、一枚の布から作られた簡素な物を身にまとっていた。陛下曰く、特注で作らせた『着物』というドレスらしい。『帯』という幅の広い紐で腰の少し上あたりを縛っているが、見慣れない私からすれば直ぐに脱げてしまわないかと不安だ。セレーナは先ほどと変わらぬ白い修道服で、アーニャさんもいつもと変わらぬロングの侍女服だった。私だけがロングの侍女服から着替え、動きやすいズボンに履き替えているのが少し場違いに思えてしまう。


「すまない。遅くなった」


そんなことを思っているとイライザが入ってきた。彼女は、いつも身に着けている男性が着用するズボンの侍従服から、私と同じズボンを履いて私服を着用していた。


「大丈夫ですよ。それでは、行きましょうか」


 陛下はセレーナに椅子を引かれて立ち上がると部屋を出る。私達もそれに続いて部屋を出ると、陛下に先導される形で王宮の廊下を歩き、中庭へと向かっていく。そうして、中庭へと辿り着くと人払いをして私達以外の視線を排除する。そして、いつも通りに服をアーニャさんへと預けて、指を小気味よくパチンと鳴らす。


「セレーナ。そこは危ないですよ! 少し下がってください」


 予め下がっていたイライザやアーニャさんと違ってセレーナは、陛下の変身過程に見入っているのか、下がらずにいたため声をかけて注意を促す。そこで、ようやくセレーナは私達のいるところまで下がる。


「ありがとうございます。少々見入ってしまいました」


「圧巻ですからね。陛下の変身魔法は」


「ええ。回復魔法とは比べ物になりません」


 少々気恥しそうに言うセレーナから目を離し、再び陛下の方を向けば変身はすでに終わっており、翼の調子を確かめるようにゆっくりと動かす白銀のドラゴンが目の前に佇んでいた。太陽の光を受けてキラキラと煌めく白銀の鱗は美しく、体躯は巨大だが尻尾がそれなりに長いからか、しなやかな印象を受ける。

 陛下が体を地面に伏せる格好になるとアーニャさんが尻尾から背中へと登り、次いでイライザ、私、セレーナの順に背中へと登る。そして、背に生えた棘を握って体を固定すると陛下が起き上がり、翼を動かして空へと舞い上がる。


「振り落とされないように注意を!」


ある程度高度をとるために速度を上げる陛下の背の上で、アーニャさんが風の音に負けないように声を張り上げて注意を促す。それが数分続き、ようやく風も耐えられるほどに収まると周囲を見渡す余裕ができる。

 普段、王宮の塔から見ているものとは比べ物にならないほど、広く広がっていく世界と遠い地平線、複雑に絡む川や広がる森、それに寄り添うように佇む街や村。普段見ることのない、壮大な世界の姿が眼下に広がっていた。

 いつか空を飛んでみたい。高い空から見る景色はどうなのだろう。そんな思いを抱き、いざそれを目にしたというのに、言葉は出てこない。ただただ、大きく目を見開き光景を焼き付けていく。本当に感動したときは、言葉など出てこないのだと生れて始めて知った瞬間だった。


「リーナ殿! しっかり掴まれ。陛下が降下しはじめるぞ!」


 刻一刻と変化する景色に圧倒され、茫然としていたが、イライザの声で我に返る。そして、ゆっくりと高度を下げ始める陛下の背から振り落とされないように再び手に力を入れて捕まり、体を固定する。

 下から吹き上げてくる風に吹き飛ばされないように注意し、目を細めて景色を伺えば、王宮の塔から遠くに見えていた山の一つに降りようとしていた。木々の少し上をゆっくりと飛行し、降りられそうな広場を見つけるとゆっくりと地面へと降り立つ。


「ん。なんだか、体が強張っているような気がします」


 セレーナが羽を少し動かし調子を確かめてから飛び降りる。それに続き、私も少し強張った体を解してから滑り降り、アーニャさんとイライザが続いて降りる。全員が下りると陛下も変身を解き、人間の姿へと縮んでいく。


「アーニャ。服を・・・」


「こちらです」


 アーニャさんが差し出した服をヒラリと身に纏い、帯をしっかりと締める。そして、ついでとばかりに黒いリボンでいつもは背に流している長い銀髪をうなじのあたりで一纏めにする。いつもは髪を纏めるか背に流すかでアーニャさんとの違いを作っている陛下が髪を縛るとアーニャさんとの違いは表情くらいになり、改めて双子なのだとしみじみと思う。


「それでは、散歩と行きましょうか」


 ゆっくりと木々の生い茂る森の方へと歩き出す陛下に続き、私達も歩き出す。持ち物といえば武器と昼食の入ったバスケットなので、置いていく程でもないので手にしたまま追従する。


「王宮から見ていきたいと思っていましたが、なかなかに綺麗ではないですか?」


 10月ということもあり日差しは穏やかで、木々の隙間から差し込む木漏れ日は優しい暖かさを地面に届けている。小鳥のさえずりや、虫の鳴き声も夏に比べると心なしか穏やかに感じる。野に咲く季節の花々は濃い青色で、儚げに小振りな花を咲かせていた。そんな中を、陛下は楽し気な笑みを浮かべ、普段は悟りにくい感情を表に出し、うきうきとした様子で奥へと進んでいく。私達がいなければ、あちこち走り回ってみて回りそうな様子に少し笑ってしまう。


「ん? リーナ。どうかしましたか?」


 陛下が満面の笑みで振り向き聞いてくる。その、楽しそうな笑みに今度は声をあげて笑ってしまう。


「ふふ。いえ。陛下がとても楽しそうでしたので」


「ええ。とても楽しいですよ。森は最高ですね♪」


 まるで、森の生気を吸い込まれるかのように大きく息を吸い、満面の笑みを浮かべる。陛下は人間ではなく、エルフに生まれればよかったのではないか。そうすれば、一緒に森の中を自由に駆け巡ることもできたのではないか。そんな考えがふと浮かんでしまう。


「陛下は森にいると生き生きとしておられます」


 小一時間ほど森の中を散策し、丁度良く開けた場所を見つけたので、そこでお昼にすることになる。倒れた木に腰掛け、バスケットを開く。それぞれ好きなものを選び、口にする。陛下は真っ先に選び、いつもとは違い大きく口を開けて噛り付いていく。いつもとは違う様に、どちらかといえばこちらが素のような気がする。イライザも同じく、大きく噛り付いている。貴族とはいえ、ほとんどを軍で過ごしているからこうなのだろうと考える。アーニャさんは、陛下の隣で対照的に静かに口に運んでいた。品の良さを感じるその食べ方は、長い間存在を秘されたいたとはいえ、貴族の子女なのだと思う。セレーナはいつも通りに陛下の世話を焼き、果物を進めたり次は何がいいかなど陛下に聞いており、こんなところまでと苦笑し、セレーナらしいと納得する。


「もう少し散策したら、帰りましょうか」


 食事を終わらせ再び森の散策を行う。実りは多く豊かであり、時折、鹿が跳ねているのを見かける。自分の故郷の森はどうだったかとふと考えてしまう。よくよく思えば、森をこうして歩き回ったのはいつ以来だろうかと考えてしまう。陛下の侍女として働くようになってから、休日は出かけるにしても王都の中であり、それ以外は常に陛下の傍に侍っていた。自然と森に出る機会は減り、最後に森に入ったのはエルフの王国を訪れた時であり、あれは決していい思い出とは言えない。


「リーナ。どうかしましたか?」


「え?」


 気が付けば、陛下の横を歩いていたアーニャさんが私の隣を歩いていた。話しかけられて初めて気が付き、驚いてビクリと体が強張る。


「何か考え事でも?」


「いえ。久しぶりに森を歩いたからか、いろいろと思い出してしまって」


 アーニャさんにそう言いながら、陛下に仕える前のことを考えるの事態もかなり久しぶりだと気付く。


「リーナ! 珍しい花が咲いていますよ」


 再び記憶の海に沈みそうなところで、陛下の楽しげな声が聞こえ、一気に救い上げられる。


「あまり見ない花ですが、知っていますか?」


 陛下に手招きされて見に行けば、なかなか見慣れぬ濃い紫の花が咲いていた。木漏れ日の指す大地に大輪の花を咲かせる花はとても美しく見えた。


「とても綺麗ですね。リーナは見たことがありますか?」


「いえ。私も初めてみました・・・・とても、美しいですね」


 紫の花から視線を逸らせば、ニコニコと笑みを浮かべて花を愛でている陛下の横顔があった。その笑みはとても楽しそうで、自然と私の顔も笑みを浮かべてしまう。

 陛下と出会ってから、退屈しない日々を送っている。魅力的な同僚達の日々と、それを見ながら微笑んでいる陛下の顔がとても好きだと思う。もし、あの日陛下に出会っていなかったらどんな日々を送っていたのか想像もできないし、想像する意味もないのだろう。私にとっては今が大切で、とても充実している。


「さてと。もう少ししたら帰りましょうか。日も傾いてきましたから」


「もうそんな時間か。時間が経つのは早いものだな」


 声につられて視線を西の空へと向ければ、赤い太陽が傾き始めていた。もうそんなに時間が経ったのかと驚くが、残念な気持ちは微塵も無く、むしろ満ち足りた、とても満ち足りた気分であった。


「リーナ。行きますよ」


「はい! どこまでも付いて行きます」


「大袈裟ですね♪」







同日 セルブラント王国


「収穫した小麦は一度倉庫へ運べ!」


「おい貴様! 列を乱すな! 焦らなくても配給は十分にある」


 長い間貧困に喘いでいたセルブラント王国は、久方ぶりに活気づいていた。炊き出しの鍋が並べられ、台にはパンが山の様に積まれていた。野山でとれた食料は鍋で煮込まれ、小麦は水車小屋や風車小屋で小麦粉に加工され、それがパン屋へと持ち込まれる。そして、十分に残された小麦が畑へと撒かれる。来年には、芽を芽吹かせるだろう。厄介な問題と共に。

 セルブラント王国は蘇ろうとしていた。しかし、それは他国から望まれた復活とは決して言えないものであった。


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