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神の悪戯

今回も遅れました。いつの日か、ちゃんと自分なりに決めた投稿日通りに投稿できようになりたいな

ヴィクトリア歴6年 5月16日 ヴィクトリア王国 王都 王宮


 屋内での変わらない生活。退屈で静寂な冬は過ぎ去り、再び活気が戻り始めていた。王都でも近隣の村々から売買に来た村人達が増え始め、相も変わらず大通りの露店は賑わいに満ちていた。そんな季節になって、ようやく冬の被害が報告される。


「餓死者、凍死者数は集計中だよ。各市町村の役場には迅速な報告を呼び掛けているけど、開拓村の中には甚大な被害が出ったってところも多いみたいだよ」


「食料は足りているが、それが行き渡っているかとなると別問題だな」


「仕方ないだろ。国が国民一人の食べる食料の量まで細かく指示する事なんてできないからな」


「開拓村という事は、輸送路の問題なのでは? とにかく、問題点を洗い出して解決していきましょう。研究開発局の尽力で、肥料や農耕器具は日々良い物が出ています。今まで耕せなかった場所も新たな農地となり始めているのに、開拓村での死亡率が高くてはそれも進みません」


 昼は温かく、ようやく閉鎖的な会議室から解放された月島、芳賀、小松、俺の四人は中庭での報告会を行っていた。


「外務部から報告のあったセルブラントの難民は、予定通りにトスカナ州に入って貰っているよ。最初の内は支援するけど、今年中には自給できる形にするのが目標かな。幸い、エルフ属国からの木材が造船に使われているから、国内産の木材は値下がりしてるし、北方諸国から輸入していた木材に関してはかなり安くなってるからね。建材の確保は楽だよ」


 昨年のダーリング城での会議で予想された未来は、今の所は現実となりつつあった。セルブラント王国から大使館職員を引き上げさせた後に侵入させた情報源の報告では、農民の多くが村を捨てて難民となるか、凍死や餓死したそうだ。街では餓死者を出しながら、木材や雑草、とりあえず食えるものは全て食いながら、何とか生き繋いでいるようだった。また、リトシアへは国王と少数の貴族が亡命したとの報告があった。目撃情報からは、彼等の周りのは薄い膜が張られ、触ることが出来なかったらしい。


「まずは、外務省からの報告を聞こうか?」


「では、まずは各国の状況からですね。南方諸国の動きは特に問題ありません。我が国と周辺国が同盟したためか、軍備の増強と国境沿いの要塞を強化しているくらいでしょうか? それに対して、サントン王国は特段動きはありません。国土の開拓には熱心なようですが、攻める為に軍備の増強などを行っている様子は報告されていません。他の同盟諸国も同じです。カステル王国のみが、工業化と軍備増強を行っています」


「北方諸国は? セルブラントとダリア、リトシアはどうなんだ?」


「セルブラント国内は荒廃の一途ですね。治安維持も機能していませんし、食料は枯渇しているようです」


 王族が逃げ出したことで、セルブラント王国は一時無政府状態となった。今まで機能していた指揮系統が国外へと逃亡したことで、国内の機能は完全に麻痺した。現在、セルブラントに君臨しているのは、元正規兵達からの支持の厚い将軍らしい。


「首都防衛隊と国境から引き抜かれた元正規兵が丸ごと将軍の指揮下に入りましたからね。王族の逃亡によって怒りをぶつける相手がいなくなった暴徒達は空中分解同然にバラバラになりましたし、今やあの国の最高権力者は将軍という事になっていますよ」


 王都周辺の地盤を固めた将軍は、国境の警備を行っていた国軍も支配下においた。兵士達に人気の将軍相手に反意する度胸は指揮官たちには無かったらしく、抵抗もなく全指揮権は一人へと集まった。


「リトシアは警戒しているようですが、ようやく立て直してきた所ですからね。そこに、セルブラントからの難民という事で、軍の再建は思う様には進んでいないようです」


「大使館からの報告は? 難民の手続きなんかは大使館の方でやるって話だろう?」


「ええ。滞りなく進んでいるようです」


 接する国境線が長いためか、リトシアへは多くの難民が流入していた。難民たちは一旦最寄りの街へと集められ、そこからヴィクトリア王国が手配した馬車により、リトシア王都へと集められ、駐リトシア王国大使館での手続きを終え次第、トスカナ州へと移送される。途中の護衛はリトシア王国とダリア王国によって行われる。勿論、護衛費用はあちら持ちである。


「ダリア王国は平穏そのものですね。難民は自国民との摩擦を避けて開拓村へ送られています。海運貿易で資金は潤沢ですから、支援も手厚いようです。噂による、難民の呼び込みもしているようですし、ここで一気に人的資源の増大を狙っているのかもしれませんね」


「カステル王国もダリアも着々と力をつけているか。それで、僕達はどうするんだい? 食料支援の名目で穀物を安く大量に押し売りしてたけど、今回ので減ったからね。当然、影響力も落ちたけど?」


 ヴィクトリア王国の影響力の一面には、大量の食糧輸出によって他国の食糧事情を握っているということもある。ヴィクトリア王国は、農民からは硬貨ではなく小麦で税を納めさせている。その理由は、万が一の備蓄、小麦の市場価格を操作するため、安く他国へと売りつけることで自給率を低下させる目的などが存在する。だが、ダーリング城での会議での取り決めにより、三つ目の目論見は制限を受けた。ヴィクトリアへの食糧依存度が下がれば、その分だけ影響力は低下する。


「ええ。ですから、これを機に工業化を推し進めてはどうでしょうか? 食料は輸出を制限するのであれば、国内に溢れます。開拓村の増加分だけ増えますし、ここらで大きくなり始めた村の畑を潰し、街にしてしまっても良いのでは?」


 国内のインフラ整備、水道の整備、役所による行政の円滑化、衛生面の改善と食糧生産量の増加による人口増の結果、そこそこの規模に成長した村は多数存在する。それらの村の畑を買い上げ、国営工場を建設するなり、起業したい商人に売り払うなりすれば、工業化と街へと成長する基盤は完成する。本来はゆっくりと進むのだが、そこを行政の力で一気に進めてしまおうというのだ。


「いいんじゃないか? 工場での労働力が必要なら、囚人を提供できる。懲役刑を言い渡される犯罪者は多いからな」


「少ないですが、奴隷も動員できます。ライン生産のいいところは、熟練の技も研鑽もそこまで必要ないところですからね」


「なら、村のリストアップは内務省でやっておくよ」


「そうなると、今度は限られた農地で高収穫を見込めるようにしないといけないってことか?」


「まだ大丈夫だろうけど、ゆくゆくはそうなって欲しいかな」


「となると、どこかに大規模な堆肥工場を作るのもありか?」


 ヴィクトリア王国の農法は輪作だ。連作障害を防ぐために、小麦、かぶ、ジャガイモ、アルファルファを四つに区分けした畑で作っている。地力の回復はマメ科の植物であるアルファルファで行っているが、家畜の排泄物を肥料として使うこともある。だが、地力の回復を人工的な肥料で行えるならば、小麦のみを大規模に作るプランテーションを行うこともできる。


「ですね。使えるものは有効活用しなくは。小麦の茎は堆肥の発酵に使えますし、馬の飼料にもなります。アルファルファを育てるスペースを小麦に割り当てることができるなら、生産量のアップにも使えるでしょう」


「農業に精通しつつ、畜産が活発な規模の小さな村に併設するのがいいんじゃないか?」


「その方がいいだろうね。どうせなら、そこで火薬も作ったほうがいいかな? そうなると、大規模になるから警備も必要になるね。 インフラも整備しないといけないか」


「だな。警備は警務省か?」


「軍事関連ですが、軍は警備に慣れていません。警務省のほうにお願いします。重武装の装備を許可すれば、戦闘力は問題ないでしょう」


「把握した」


 大砲の生産体制が確立し、配備も続いている。火薬の増産は必要だったが、硝石の採掘にも限度があり、微々たるものでも人工で作っていかなければならなかった。


「そういえば、法務省に依頼していた件はどうなりましたか?」


「国家保安局の件か? 情報収集のために、逮捕権を認めろと」


「ええ。国の安全保障に関して、必要な措置です」


 設立から二年になろうとしているが、法務省の方で調整が済まない限り、活動は監視活動しかできない。違法に活動してもいいのだが、正当性を疑われると活用するにも効果は限定的だ。


「クーデター活動に関しては、警備隊での逮捕は難しいんじゃないかい? 疑わしきは罰せずだろ?」


「国家保安局の目的は、警備隊では防げない大規模で重大な犯罪を防ぐことにあります。疑わしきは罰せよですよ」


「仕方ないんじゃないか? 監視体制も技術も低い現状、それくらいでないと、高官の暗殺やクーデター、スパイ活動の防止はできないだろう?」


「・・・・・分かった。直ぐにでも逮捕権や捜査権が行使できるようにしておく」


「お願いします」


 国家保安局の活動が正式に認められるんであれば、より効果的な防諜活動などができるだろう。


「それじゃあ軍務省の方針だけど、セルブラントはどうするつもりなんだい? 会議では静観するってことで合意らしいけど、今がチャンスじゃないのかい?」


「会議の時は周りの目が合って言えなかっただろうが、侵攻する気はないのか?」


「今はありませんよ」


「その理由は?」


 三人の目が集まるが、そこまで重大な理由があるわけではなかった。俺は茶菓子を口に運ぶと、少し間を開けて説明することにした。


「深い理由はありません。ただ、民に知らしめたいのですよ。国王の権威というものを」


「よく分からないな。詳しく頼むよ」


 俺は頷くと、お茶で口を湿らせてから話し始める。


「我々が国を統治できているのは、神がその権利を授けたからです。王権神授説が本物なのですよ。神が選んだ国王を排除したセルブラント王国がこのまま荒廃すれば、民達はどう思うでしょうか?」


「神の怒りに触れたと?」


「ええ。そうなれば、王室打倒などと考える者たちはいなくなります。誰だって、神が本当に手を下してくるのに、立ち向かおうなんて思いませんから。だから、あの国にはこのまま自滅してもらいます」


 同盟国とセルブラント王国を分割するか。それとも、今後の革命を防止するために、一芝居打つか。同盟国間では後者が選択された。どの国も抜け駆けせずに、静観しているのがいい証拠だ。


「そんな訳で、私達は今はまだ動くべきでないのですよ。一度荒廃し、荒廃しきったその時に治安回復とセルブラント国民の保護という名目で進行します」


「そう言う事なら、いつも通り任せるよ」


「ええ。信頼に応えられるように頑張りますよ」


 俺と月島は、お互いにニヤリという擬音が合いそうな笑みを浮かべた。そんな俺達のわきで、芳賀がお茶を飲み干して立ち上がる。


「さて、それじゃあ報告会は終わりでいいか? お前らのおかげで農務省は忙しくなりそうだからな」


「こっちも、保安局のせいで忙しくなりそうだ」


 芳賀に続き、小松も書類を抱えて立ち上がる。そして、二人で中庭から出て行ってしまった。


「それじゃあ、僕も失礼するよ? できるだけ早く選定して、建設に取り掛かれるようにしておくよ」


「お願いします」


 月島も立ち去り、俺はしばし一人で草花が咲き切らない寂しい中庭を眺めながら、お茶の残りを飲んでいた。


「――アーニャ殿失礼する。軍務省・・・・・」


 そうしていると、後ろの方で話し声が聞こえた。どうやら、控えていたアーニャにイライザが要件を伝えに来たようだった。軍務省関係ということは、国境に何かあったのだろうか。

少しすると、後ろから近づいてくる足音がした。アーニャのものだとすれば、イライザの伝言が緊急のものなのだろう。面倒くさい気持ちになるが、飛んで逃げるわけにもいかない俺は、黙って最後の一口を口に運び、飲み下す。


「陛下。軍務省からです」


「緊急の要件ですか?」


「はい。セルブラントに潜り込ませていた情報源からです。どうやら、出所不明の小麦がセルブラント王国に運び込まれたそうです」


「出所不明ですか? 同盟諸国、北方二国、南方二国からの情報は?」


「大使館からの情報はございません」


 予想通りの面倒くさい案件だった上に、飛び切り厄介事だった。


「アルマンとエーリヒを呼びなさい。執務室に戻ります」


 俺は席を立ちあがると、執務室へと向かって廊下を歩き始めた。


「それと、不確かなものですが、野山で採れる野草、果実、動物など食料になりそうなものが大量に採れそうな兆しがあるとのことです」


「はぁ~。もっと報告をあげさせなさい。それと、研究開発局から自然に詳しい学者を連れてきなさい。検証させます」


「承知いたしました」


 たった二つの報告によって、俺が休める時間は消滅し、代わりにとびっきり面倒くさい問題が舞い込んできたのだった。

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